銭大昕

銭大昕（せん たいきん、1728年2月16日 - 1804年11月21日）は、中国清代の著名な考証学者です。字は暁徴、号は辛楣、晩年には竹汀居士や潜研老人とも称しました。

生涯

銭大昕は、雍正6年（1728年）に太倉州嘉定県（現在の上海市嘉定区）で生まれました。幼少の頃から学問に励み、蘇州の紫陽学院で学びました。1751年、乾隆帝の南巡の際に召試を受け、その才能を認められて挙人の地位を授かり、内閣中書に任用されました。その後、1754年に進士に合格し、翰林院の官僚として様々な役職を歴任し、最終的には事府小事まで昇進しました。翰林院在職中は、郷試や会試の主考官、同考官も務め、官僚としての実務能力も高く評価されました。

1775年には広東学政に任命されましたが、父の喪に服すために帰郷し、そのまま官界を引退しました。その後は、教育者として後半生を送り、鍾山、婁東、紫陽の各書院で院長を務め、後進の育成に尽力しました。30年間にわたり教育に携わり、多くの優秀な人材を育てました。

学問

銭大昕は、幅広い分野において深い知識と独自の視点を持っていました。若い頃には西洋の数学や天文学を学び、中国古代の暦算学を研究し、『三統術衍』を著しました。この書は、彼の数学・天文学に対する造詣の深さを示すものです。

また、哲学、経学、史学、地理、文字音韻、金石、詩文など、多様な分野に精通していました。特に史学においては、『二十二史考異』を著し、清朝史学の方法を確立したと評価されています。これは、『史記』から『元史』までの二十二の正史を詳細に校訂したもので、その実証的な研究方法は、後世の史学研究に大きな影響を与えました。また、『潜研堂金石文跋尾』では、金石文の研究を通して歴史を考証するなど、史料批判に重きを置いた考証学を確立しました。

銭大昕は、同時代の学者である恵棟が古代に偏重する傾向や、戴震の史学的視点の欠如を批判的に捉え、これらの欠点を補正するような研究を心掛けました。彼の学問に対する姿勢は、実証的な考証に基づき、客観的な事実を重視するものでした。

銭大昕は詩人としても知られ、『詩集』20巻を著しました。その詩は、彼の豊かな感性と深い学識が反映されており、多くの人々から愛されました。

阮元は、銭大昕を「九つの難事を成し遂げた人」と称え、その幅広い学識と清廉潔白な人柄を高く評価しました。翰林院在職中に、『続文献通考』や『大清一統志』をはじめとする多くの勅撰書の編集に携わったことは、彼の学識の高さを示す証左と言えるでしょう。

家族・親族

銭大昕の妻は、同じく清代の学者である王鳴盛の妹でした。王鳴盛もまた、考証学者として著名であり、銭大昕との間には学問的な交流があったと考えられています。

主要な著作

銭大昕の著作は、『潜研堂全書』に集成されています。主な著作は以下の通りです。

二十二史考異（100巻）: 『史記』から『元史』までの正史を校訂した著作。考証史学の代表作として知られています。
十賀斎養新録（20巻）、余録（3巻）: 顧炎武の『日知録』の形式にならって考証をまとめたもの。幅広い分野の知識が盛り込まれています。
恒言録（6巻）: 当時の日常語（俗語）について考証したもので、言語学的な観点からも貴重な資料です。
潜研堂文集（50巻）、詩集（10巻）、続詩集（10巻）: 銭大昕の文章や詩を集めたもので、彼の文学的な才能を示すものです。

これらの著作は、銭大昕の多岐にわたる学問的関心と、卓越した研究能力を今に伝える貴重な遺産となっています。

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