錦輝館

錦輝館：多目的会場から映画館へ、その歴史

錦輝館は、1891年（明治24年）10月9日に東京府東京市神田区錦町（現在の東京都千代田区神田錦町3-3）に開業した、かつて存在した多目的ホールです。当初は集会用の貸しホールとして、近隣の東京基督教青年会館（神田YMCA）と並び、若者や学生が集う場所として利用されました。

多様な利用と事件の舞台

開業間もない1891年10月20日には、自由党の大演説会が開催され、板垣退助が暴漢に襲われるという暗殺未遂事件が発生しました。1894年（明治27年）には、落語や浪曲などの演芸会が開かれ、多くの人々で賑わいました。

東京初の映画興行

1897年（明治30年）3月6日、錦輝館では新居商会によるヴァイタスコープを用いた映画上映会「電気活動大写真会」が開催されました。これは、東京における最初の映画興行として記録されています。弁士は十文字大元、宣伝は広告代理店の広目屋と駒田好洋が担当しました。ヴァイタスコープには直流電源が必要であり、発電のために石油エンジンを貸し出した十文字商会の人物が十文字大元であったとされています。

1899年（明治32年）6月1日には、米西戦争（1898年）に関するアメリカのニュース[[映画]]『米西戦争活動大写真』が上映され、「日本初のニュース[[映画]]上映」として注目を集めました。1907年（明治40年）3月には、京都の映画会社である横田商会が錦輝館と特約を結び、映画の定期的な上映を開始しました。

赤旗事件と焼失

1908年（明治41年）6月22日、錦輝館は赤旗事件の舞台となりました。この事件は「錦輝館事件」とも呼ばれ、その名が冠されることになります。同年8月1日には、イタリアの映画会社と契約を結び、活動写真会を開催、後に洋画専門館となりました。しかし、1918年（大正7年）8月19日、火災により焼失し、その歴史に幕を閉じました。

錦輝館で公開された映画

錦輝館では、吉沢商店や横田商会を中心とした多くの日本映画が公開されました。

『北清事変活動大写真』（1900年）
『教育活動写真』（1902年）
『京都祇園祭実況』（1903年）
『スタンダード活動写真』（1906年）
『社会パック活動写真』（1906年）
『大演習』（1907年）
『錦輝館の活動写真』（1908年）
『良心の勝利』（1909年）

その他多数

文学作品への登場

錦輝館は、多くの文学者の日記や小説にも登場しています。

永井荷風『濹東綺譚』
徳田秋声『思ひ出るまゝ』
五所平之助『わが青春』
依田學海『學海日録』
和辻哲郎『自叙伝の試み』

これらの作品を通じて、当時の錦輝館の様子や雰囲気を知ることができます。

他地域の錦輝館

大正末期には、北海道にも錦輝館が存在していました。

錦輝館（北海道函館市寶来町）
* 錦輝館（北海道小樽市手宮町）

これらの錦輝館は、岩見永次郎が経営し、中村鎮が設計したもので、1908年に開業しました。

錦輝館は、多目的ホールとして、また映画館として、日本の文化史に名を刻む場所でした。焼失によりその姿を消しましたが、多くの人々の記憶の中に生き続けています。

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