依田學海

依田学海（よだ がっかい）

依田学海は、天保4年（1834年）に下総国佐倉藩（現在の千葉県佐倉市）に生まれ、明治42年（1909年）に没した、幕末から明治にかけて活躍した多才な人物です。漢学者としての深い知識に加え、文芸評論家、小説家、劇作家としても才能を発揮しました。幼名は幸造、信造。通称は七郎、右衛門次郎。諱は朝宗。字を百川と称し、後にこれを本名としました。学海は雅号であり、柳蔭とも号しました。

生涯

佐倉藩士の次男として生まれた学海は、藩校・成徳書院で漢学と経史を学びました。明治維新後、東京に出て東京会議所の書記官となり、その後、文部省で漢文教科書の編集に携わりました。文部省退官後は、創作活動と文芸評論に力を注ぎました。

森鷗外との関係

学海は、森鷗外の漢文の師であり、鷗外のベルリン留学の際には送別の序文を贈りました。鷗外の小説『百物語』や『ヰタ・セクスアリス』には、学海との交流が描かれており、『ヰタ・セクスアリス』に登場する「文淵先生」は、学海がモデルとなっています。

その他の文学者との交流

学海は、森鷗外以外にも、幸田露伴を文壇に送り出すなど、多くの文学者と交流がありました。また、川田甕江とは同門であり、親交を深めました。

演劇への貢献

学海は、演劇にも関わり、川上音二郎のために壮士史劇『拾遺後日連枝楠』を執筆しました。また、九代目市川團十郎の演劇改良運動に賛同し、歌舞伎の近代化を目指しました。自ら文化人を自負し、旧来の狂言作者を批判していましたが、河竹黙阿弥の才能は高く評価していました。

主な著作

学海の著作は多岐にわたり、戯曲、小説、評論などがあります。主な作品としては、『吉野拾遺名歌誉』、『文覚勧進帳』、『豊臣太閤裂封冊』などの歌舞伎作品、『拾遺後日連枝楠』、『政党美談淑女操』などの壮士劇、漢文小説集『譚海』、随筆集『話園』、『談叢』などがあります。また、日記である『学海日録』は、当時の文化や社会を知る上で貴重な資料となっています。

死後

学海は明治42年（1909年）に77歳で亡くなりました。長男の依田美狭古は海軍史の編纂に携わり、甥には歌人の依田秋圃がいます。

学海の全著作や自筆日記などは、「学海叢書」として無窮会専門図書館に所蔵されており、その業績は今日でも高く評価されています。

参考文献

昭和女子大学近代文学研究室編『近代文学研究叢書 第10巻』昭和女子大学光葉会、1958年
戸板康二編『明治文学全集 85 明治史劇集』筑摩書房、1966年、ISBN 4480103856
秋庭太郎編『明治文学全集 86 明治近代劇集』筑摩書房、1969年、 ISBN 4480103864
学海日録研究会編『学海日録』岩波書店、1990～1993年
依田学海作品刊行会編『依田学海作品集』依田学海作品刊行会、1994年
白石良夫『最後の江戸留守居役』筑摩書房〈ちくま新書〉、1996年、ISBN 4480056742
白石良夫『幕末インテリジェンス－江戸留守居役日記を読む』新潮文庫、2007年
学海余滴研究会編『学海余滴』笠間書院、2006年、ISBN 4305703009
『今井源衛著作集13 依田学海とその周辺』笠間書院、2019年、ISBN 4305600927

関連項目

新劇
明治政府の修史事業
市川九女八

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