鎖鎌銀

鎖鎌銀：猪突銀戦法の妙技

鎖鎌銀は、後手番が先手の腰掛銀や類似の戦法に対して用いる、相掛かりの一種です。飛車と銀の連携を、刃物と鎖からなる武器「鎖鎌」に見立てた、攻撃的な戦法として知られています。別名「猪突銀戦法」とも呼ばれ、その積極的な攻めから、多くの将棋ファンを魅了してきました。

歴史と有名対局

鎖鎌銀の起源は1950年代に遡ります。1956年の第9期順位戦A級で、塚田正夫九段対升田幸三名人戦で初めて注目を集めました。この対局は、鎖鎌銀の代表例として現在も語り継がれています。その後も、大友昇九段対五十嵐豊一七段戦（1960年）、鈴木輝彦九段対田中寅彦九段戦（1983年）など、多くの名局で鎖鎌銀が用いられ、その有効性と複雑さが証明されてきました。

さらに、両者ともに鎖鎌銀を採用する「相鎖鎌戦」も存在します。1963年の東京新聞棋戦で内藤国雄九段対灘蓮照八段戦、塚田正夫九段対花村元司七段戦などがその例として挙げられます。これらの対局では、互いに鋭い攻め合いが繰り広げられ、観る者を圧倒する展開となりました。

戦法の特徴と狙い

鎖鎌銀は、△7四銀と銀を中央に繰り出すことから始まります。これは、普通の腰掛銀△5四銀とは異なる、鎖鎌を彷彿とさせる独特の駒組みです。その後、△8二飛と飛車を振り、銀将と飛車の連携によって先手の陣形を崩し、一気に攻め立てるのが特徴です。

一般的な腰掛銀戦法では、5四から6五銀と銀を突き進める「ガッチャン銀」という攻めがありますが、鎖鎌銀はこれを避け、7四から8五銀と、より静かに、しかし確実に攻めを仕掛けます。先手は▲7七桂で8五への進出を防ごうとしますが、消極的な受けは後手の思う壺です。図のように、先手が4五銀と進出すると、△6五銀と応じることで、先手は2三銀まで進む展開となります。

代表的な対局の分析

塚田対升田戦では、1筋の歩を交換する展開となり、後手が優勢に立ちましたが、△7八成銀という悪手が響き、先手の勝利となりました。もし後手が桂馬を逃がす△2五歩▲同飛△1三桂▲2一飛成と指していれば、結果は変わっていたかもしれません。

鈴木対田中戦では、十段戦と『将棋世界』誌の定跡実験室で異なる展開となりました。十段戦では、先手が勝利しましたが、定跡実験室では後手が勝利しています。鈴木九段は、この戦法について、先手がわずかに優勢な定跡ではあるものの、後手も十分に戦える戦法であると結論づけています。

二上達也九段対芹沢博文七段戦（1973年）では、二上九段が20年来温めていた▲2四飛という手が指され、先手の勝利に終わりました。この対局も、鎖鎌銀の奥深さ、そしてその発展性を示す一例といえるでしょう。

鎖鎌銀の奥深さ

鎖鎌銀は、その攻撃的な性質と、複雑な局面展開から、多くの研究を呼び起こしてきました。本記事で紹介した対局以外にも、多くの棋士が鎖鎌銀を用いて数々の名局を生み出しています。今後も、将棋界において重要な戦法の一つとして、その存在感を示し続けることでしょう。

関連用語

UFO銀

もう一度検索