長孫無忌:唐初期を支えた名宰相
長孫無忌(ちょうそん むき)は、
唐王朝初期の
政治家で、太宗の
皇后である長孫氏の兄という、外戚の立場にありました。
字は輔機(ほき)。その卓越した政治手腕と、冷静な判断力で、
唐の発展に大きく貢献しました。
唐の凌煙閣二十四功臣の第一位に列せられたことからも、彼の功績が非常に大きかったことが伺えます。
生い立ちと家柄
長孫無忌は、
隋の右驍衛将軍であった長孫晟(ちょうそん せい)の子として生まれました。長孫氏は、北魏時代に遡る名門であり、関隴集団の中でも特に貴顕な家柄でした。父の死後、異母兄との不仲から母方の伯父である高士廉(こう しれん)を頼り、その庇護のもとで学問に励み、文章や歴史に精通しました。
唐の建国と玄武門の変
617年、李淵(後の
唐の高祖)が挙兵すると、長孫無忌はこれに合流し、李世民(後の太宗)の側近として活躍しました。彼は、李世民の征戦に常に同行し、その功績により官位を重ね、上党県公に封じられました。
626年に起こった玄武門の変では、
房玄齢(ぼう げんれい)や杜如晦(と じょかい)らと共に李世民の計画を支え、皇位継承に大きく貢献しました。この功績により、李世民が
皇太子となると太子左庶子に昇進、太宗即位後には左武候大将軍、吏部尚書などの要職を歴任し、斉国公に封じられました。
太宗の時代
長孫無忌は、太宗の治世において、その卓越した政治手腕を発揮しました。特に、
突厥との外交政策において、その冷静な判断力は際立っていました。
突厥の内紛に乗じて攻撃しようという意見が多数を占める中で、長孫無忌は、盟約を重視し、慎重な対応を主張しました。太宗は、最終的に攻撃に転じましたが、長孫無忌の意見も尊重していました。しかし、その権勢が強すぎることを危惧する声も上がりました。長孫無忌自身もそのことを理解しており、自ら官位を辞退するよう太宗に進言しました。太宗は、彼の功績を讃えて、
司空や司徒などの高位を与えましたが、長孫無忌は固辞し続けました。
643年、
皇太子であった李承乾(り しょうけん)が廃嫡されると、長孫無忌は、晋王李治(後の高宗)を
皇太子とする事に成功しました。これは、李治が長孫無忌にとってより御しやすいと考えたためでした。また、
高句麗遠征の際には侍中を兼任し、太宗を補佐しました。
高宗の時代と失脚
太宗の死後、高宗が即位すると、長孫無忌は、太尉に任じられ、中書令を検校、門下省と尚書省を領知するなど、国政の中心人物として活躍しました。しかし、武照(後の
武則天)の立后に反対したことが、彼の運命を大きく変えることになります。武照を
皇后とすることに反対したことで高宗の不興を買い、武照が
皇后になると、長孫無忌は徐々に孤立していきました。
659年、許敬宗(きょ けいそう)によって謀反の疑いをかけられ、黔州(
貴州省)へ流罪となりました。そして、配所において自害するという悲劇的な最期を迎えました。しかし、
674年になって、官爵を回復され、孫が爵位を継承しました。
文化的功績
長孫無忌は、
政治家としての功績だけでなく、『
唐律疏義』や『
隋書』の編纂者としても知られています。これらの業績からも、彼の学識の高さが窺えます。
長孫無忌は、その卓越した政治手腕と、冷静な判断力で、
唐の発展に大きく貢献しました。しかし、晩年は政争に巻き込まれ、悲劇的な最期を遂げました。彼の生涯は、
唐王朝初期の政治史を語る上で欠かせない重要な出来事です。