長尾景人

長尾景人（ながお かげひと）

長尾景人は、室町時代後期に関東地方で活躍した武将であり、山内上杉家の有力な家臣でした。下野国（現在の栃木県南部）の勧農城を居城とし、後世に足利長尾氏と呼ばれる一族の祖となった人物です。通称は新五郎と称し、但馬守の官職を持っていました。

若き当主の誕生と享徳の乱

景尾氏は、長尾氏の一族である長尾実景の次男として生を受けました。彼の生涯は、関東地方を未曾有の混乱に巻き込んだ「享徳の乱」（1454年勃発）と共に始まります。

享徳3年（1454年）12月、古河公方・足利成氏の攻撃により、父である長尾実景と兄の景住、そして主君である関東管領・上杉憲忠が討たれるという悲劇が起こりました。このあまりにも大きな損失により、次男であった景人は、わずか12歳（推定）という若さで長尾家の家督を継承することとなりました。以後、彼は憲忠の弟であり、山内上杉家の新たなリーダーとなった上杉房顕に仕え、父兄の仇である足利成氏との激しい戦いの最前線に立つこととなります。

戦乱の中での活躍

家督を継いだ景人は、山内上杉家のために各地を転戦します。長禄3年（1459年）には、山内上杉家と足利成氏方が激突した太田庄（現在の群馬県太田市付近）での大規模な合戦にも参加し、武将としての経験を積んでいきました。

戦乱が長期化する中、山内上杉家は下野国足利荘（現在の栃木県足利市付近）の戦略的重要性を認識し、その支配強化を図ります。寛正6年（1465年）、景人は主君・上杉房顕からの強い信任を得て、室町幕府より正式に足利荘の代官に任命されました。これは、若き景人が既に山内上杉家において重要な地位を占めていたことを示しています。

足利長尾氏の礎

代官に任命された翌年の文正元年（1466年）11月、景人は新たな拠点として足利荘に入部しました。彼はこの地に築かれた勧農城を本拠地とし、足利荘の統治と防衛の体制を固めます。この移転と勧農城を拠点としたことから、景人の一族は他の長尾氏系統と区別され、「足利長尾氏」と呼ばれるようになりました。足利荘は、山内上杉家にとって関東における重要な戦略拠点の一つとなり、足利長尾氏はその守護者としての役割を担うこととなります。

勧農城を足がかりとした山内上杉家は、関東各地への攻勢を強めます。景人もまた、これらの戦いに積極的に加わりました。応仁2年（1468年）には上野国で発生した綱取原合戦に参戦。さらに文明3年（1471年）には、下野から古河公方の本拠である古河城（現在の茨城県古河市）を攻め落とすという重要な戦役にも加わり、その武功を認められました。

早すぎる最期

度重なる戦いで武名を高めた景人でしたが、古河城を奪われた足利成氏も反撃の機会をうかがっていました。文明4年（1472年）、足利成氏方の大軍が、景人の守る足利荘、すなわち勧農城へと押し寄せます。激しい攻防の中で、景人はこの年、惜しくも戦いの渦中で命を落としたと伝えられています。

彼の生涯はわずか28歳であったと推定されています。関東の動乱期に父兄を失いながら家督を継ぎ、足利長尾氏の基礎を築き上げた人物としては、あまりにも短い生涯でした。彼の死は山内上杉家にとっても大きな損失であったと考えられます。

景人の法名は積翁常善。墓所は、現在も栃木県足利市西宮町にある長林寺に伝えられています。

景人の死後、足利長尾氏の家督は嫡男である長尾定景が継承し、父の遺志と足利荘の支配を引き継いでいくことになります。

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