長尾実景

長尾実景

室町時代、長尾氏には長尾実景（ながお さねかげ）という同名の人物が二名存在した。一人は鎌倉長尾家に、もう一人は越後長尾家に属していた武将である。同時期に活動した両者は、共通して関東管領の上杉憲実に仕え、その偏諱である「実」の一字を賜った。さらに、長尾氏で代々用いられる通字「景」も名前に含んでいたため、同姓同名の人物が二人存在する状況が生まれたのである。興味深いことに、この二人の実景は、共に長尾景為の玄孫にあたり、三従兄弟という血縁関係にあった。

鎌倉長尾家の長尾実景

鎌倉長尾家の長尾実景は、室町時代前期から中期にかけて活躍した武将で、関東管領家である山内上杉家の家宰を務めた人物である。その出自については、長尾満景または長尾憲景の子と考えられている。彼は犬懸長尾家の流れを汲んでいたが、本来鎌倉長尾氏の家督を継ぐべき長尾景仲が母方の白井長尾家へ養子に入ったため、実景は長尾房景の養子となり、鎌倉長尾家の家督を継承した。

彼は関東管領の上杉憲実、そしてその子である憲忠に忠実に仕えた。特に憲実が永享の乱で鎌倉公方足利持氏を滅ぼした後、関東の秩序維持に努める中で実景も重要な役割を果たしたと考えられる。長尾景仲が江の島合戦における責任を負って家宰職を退くと、実景がその後任として家宰の地位に就いた。しかし、享徳4年（1455年）、鎌倉公方・足利成氏（足利持氏の末子である永寿王丸が成長した姿）によって主君の憲忠が暗殺されるという事件が発生した。この享徳の乱の発端となる混乱の中で、実景は岩松持国の襲撃を受け、嫡男の長尾景住と共に壮絶な最期を遂げたのである。彼の次男にあたる長尾景人は、下野国足利庄に新たな拠点を築き、後の足利長尾氏の祖となった。

越後長尾家の長尾実景

一方、越後長尾家の長尾実景は、室町時代中期に活動した武将である。彼は越後国守護代を務め、国内で大きな権勢を誇った長尾邦景の子として生まれた。父の邦景は、越後守護の上杉房朝に仕えて重用され、さらに将軍家とも関わりが深かった関東管領の上杉憲実からの信任も厚く、越後国内を掌握していた。

実景自身も武功を立てている。永享12年（1440年）に発生した結城合戦では、永享の乱で自刃した鎌倉公方・足利持氏の遺児である春王丸・安王丸を捕縛するという重要な功績を挙げた。これは室町幕府六代将軍・足利義教にとって関東の秩序回復と幕府権威の強化につながるものであり、高く評価された。また、実景は一時期、関東管領の代理として上洛し、将軍義教のもとに仕えていた経験も持つ。

しかし、運命は暗転する。越後守護として上杉房朝の後を継いだ上杉房定が、足利持氏の末子である永寿王丸を新たな鎌倉公方として擁立しようと図った際、父・邦景がこれに強く反対したため、房定から敵視されるようになった。この公方を巡る対立の末、邦景は宝徳2年11月12日（1450年12月16日）、切腹へと追い込まれた。父の死を受け、実景は信濃国において上杉房定に対する反乱の兵を挙げた。だが、房定側の長尾頼景、飯沼頼泰らの討伐軍に阻まれ、越後根知谷の戦いで敗れ、壮絶な最期を遂げたのである。なお、彼の外孫には大石房重がいる。

このように、長尾実景と名乗る二人の武将は、同じ血筋を引き、同時代に同じ主君から偏諱を受けたにもかかわらず、それぞれ異なる家系で激動の時代を生き抜き、悲劇的な最期を迎えた。彼らの生涯は、室町時代の関東や越後における武士たちの厳しい運命を映し出していると言えるだろう。

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