長岳寺 (長野県阿智村)

長岳寺（ちょうがくじ）

長岳寺は、長野県下伊那郡阿智村に位置する天台宗の寺院です。広拯山（こうじょうさん）を山号とし、本尊として十一面観世音菩薩を祀っています。その歴史は古く、9世紀にまで遡ります。

歴史

長岳寺は、天長5年（828年）に観照寺の別当寺として上中関村木槌洞に創建されました。当初は観照寺の一山法務を処理する役割を担っていましたが、鎌倉時代以降の戦乱によって寺は衰退しました。

その後、領主下条氏の一族である小笠原肥前法印によって中興開山されたと伝えられています。小笠原肥前法印が永正元年（1504年）に寂したことから、長岳寺の創建は1400年代後半と推定されています。

天正10年（1582年）には、下条氏の内紛によって下条時氏（下条信氏の父）によって寺が焼き払われるという災難に見舞われました。その後、別当長岳寺は市ノ沢の丘陵に再建されましたが、本寺であった観照寺は再興されることはありませんでした。観照寺の本尊であった薬師如来立像は兵火を免れ、長岳寺に移され現在も大切に保管されています。

毎年、木槌洞の観照寺跡にある草堂に薬師如来像を遷座し、五日間の祭りを行う里帰り行事が200年以上続いています。この行事は、昭和58年（1983年）に「木槌薬師の里帰り」として阿智村の無形民俗文化財に登録されました。昭和60年（1985年）には、旧草堂跡に木槌薬師堂が再建されています。

天和3年（1683年）には、東叡山寛永寺の直末となり、輪王寺宮天真法親王の令旨によって、寺の名称が梅松山長岳寺栄寿院となりました。昭和年代には、27世住職である慈昭法印によって山号が広拯山と改められました。

長岳寺は、安永元年（1772年）に駒場市ノ沢の長岳寺平から上町の元領主宮崎氏の屋敷跡に移転しました。さらに昭和46年（1971年）には、国道バイパス工事と中央自動車道工事のため、現在地に移築されました。

山本慈昭と長岳寺

昭和12年（1937年）に長岳寺の住職となった山本慈昭は、国民学校の教師も兼務していました。昭和20年（1945年）には、教師として妻と二人の娘を伴い満蒙開拓団に加わりましたが、敗戦後の混乱の中で逃亡生活を余儀なくされ、シベリア抑留も経験しました。

昭和22年（1947年）に帰国した後、逃亡時の混乱で離れ離れになった妻と娘二人の安否を確認しましたが、死亡したとの報告を受けました。昭和39年（1964年）には、中国へ遺骨を拾いに行きましたが、認められませんでした。その後、中国残留孤児から日本の家族を探してほしいという手紙を受け取ったことをきっかけに、孤児と日本の家族を引き合わせる活動を始めました。昭和45年（1969年）には、長女の生存を確認し、昭和57年（1982年）に再会を果たしました。

昭和47年（1972年）には、「日中友好手をつなぐ会」を結成し、中国残留日本人孤児捜しの悲願の中で、鐘楼を建立しました。この鐘楼は、上田市（当時は塩田町）の北向観音から譲り受けたもので、梵鐘には「望郷の鐘」と刻銘されています。

境内

本堂：間口4間、奥行5間の建物で、嘉永5年（1852年）に再建されたものを昭和46年（1971年）に移築したものです。
山門
庫裡
鐘楼：北向観音から譲り受け移築したものです。
十三重塔：元亀4年（1573年）に三河国で病没した武田信玄の400年忌にあたる昭和47年（1972年）に建立された供養塔です。

文化財

長岳寺には、以下の文化財が伝えられています。

十一面観音像：本尊。
薬師如来立像：観照寺の本尊だったもの。
不動明王像
兜の前立：武田信玄が使用したと伝わる。

基礎情報

所在地：長野県下伊那郡阿智村駒場569
交通：
JR東海飯田線飯田駅より車で30分
中央自動車道飯田山本ICより車で10分

脚注

『阿智村誌』 阿智村誌編集委員会 阿智村誌刊行委員会発行 昭和59年（1984年）
* 『探訪 信州の古寺 天台宗・真言宗』 郷土出版社 1996年

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