長期暦

長期暦について

長期暦（ちょうきれき、英: Long Count）は、メソアメリカ文明において、遅くとも紀元前1世紀頃から使用され始めたとされる暦です。この暦の特徴は、非常に長い周期を持つため、実質的に循環しない暦として扱える点にあります。そのため、碑文に長期暦の日付が記されている場合、その絶対年代を特定することができ、歴史学や考古学の研究において非常に重要な資料となります。

長期暦の起源と普及

長期暦は、マヤの石碑に刻まれていたことで広く知られるようになりましたが、マヤ文明に起源するわけではなく、他の地域でも古くから使われていました。マヤの暦全般については、「マヤ暦」や「マヤ文明#マヤのカレンダー」を参照してください。

長期暦の構造

長期暦は、以下の単位で構成されています。

キン (k'in): 1日
ウィナル (winal): 20キン（「月」に相当）
トゥン (tun): 18ウィナル（「年」に相当）
カトゥン (k'atun): 20トゥン
バクトゥン (b'ak'tun): 20カトゥン

これらの単位を組み合わせて日付を表します。例えば、石碑や墓の壁画に長期暦の日付が刻まれている場合、その日を正確に特定することが可能です。

マヤ研究者は通常、バクトゥンから順に「.」で区切って算用数字で長期暦を表します。例: 9.18.16.2.6

また、トンプソンの研究によると、計算のためにバクトゥンよりも大きな単位も存在し、以下の単位が用いられていたとされています。

ピクトゥン (piktun): 20バクトゥン
カラブトゥン (kalabtun): 20ピクトゥン
キンチルトゥン (k'inchiltun): 20カラブトゥン
アラウトゥン (alawtun): 20キンチルトゥン

1アラウトゥンは約6308万年に相当します。

長期暦の元期

長期暦の元期は、13.0.0.0.0 4アハウ 8クムクとされ、これはグレゴリオ暦の紀元前3114年8月11日に相当します。バクトゥンで0の代わりに13が使われているのは、ツォルキンの日付計算で13を0として扱う慣習が拡大解釈されたためと考えられています。

キリグア石碑Cでは、この日付に創造説話を関連付けており、一部の碑文では、長期暦の5つの数字の上に13を並べたものも見られます。

GMT対照法によると、2012年12月21日に13.0.0.0.0 (4アハウ 3カンキン) に到達しました。しかし、この日付が周期の終わりであるという解釈は、マヤ古来のものではなく西洋的な見方であるという否定的な意見もあります。また、ドレスデン絵文書には、元期よりも以前の紀元前3115年3月20日の日付も扱われており、元期を終末と捉えていなかったことがわかります。

西暦との対応

西暦との対応については、以前はスピンデン対照法とGMT対照法の2つの換算法で論争がありましたが、現在ではGMT対照法がほぼ正しいとされています。

長期暦の起源と最古の資料

長期暦の最も古い資料は、7バクトゥンを表すもので（cycle7の資料と呼ばれる）、紀元前354年頃から紀元前30年くらいの時期に集中しています。これらの資料は、チャパス州北部やタバスコ州に住んでいたソケーや、オアハカ州北東部に住んでいたミヘーの人々によって作成されたと考えられています。ラ・モハーラやトゥシュトラの小像に刻まれている碑文は、これらの言語で解読可能であると主張する学者もいます。

確実に最古の日付が刻まれているのは、メキシコ・チャパス州のチャパ・デ・コルソの石碑2号で、7.16.3.2.13（紀元前36年）の日付が刻まれています。また、グアテマラのアバフ・タカリクの石碑2号も、カトゥン以下の記述が欠損していますが、カトゥンの位が6であれば7.6.0.0.0.として紀元前235年まで遡る可能性があり、16であれば紀元前38年となるため最も古い可能性を持っています。

他にも、紀元2世紀までの資料として以下のものがあります。

7.16.6.16.18 (紀元前32年): トレス・サポーテスの石碑C
7.19.15.7.12 (紀元37年): エル・バウルの石碑1号
8.2.2.10.5 (紀元83年): アバフ・タカリクの石碑5号
8.4.0.0.0 (紀元120年): ダンバートン・オークス蔵の硬玉製の儀礼斧
8.4.5.17.11 (紀元126年): アバフ・タカリクの石碑5号
8.5.3.3.5 (紀元143年): ラ・モハーラの石碑1号
8.5.16.9.7 (紀元156年): ラ・モハーラの石碑1号
8.6.2.4.17 (紀元162年): トゥシュトラの小像

マヤでの長期暦の使用

マヤで長期暦を記した最古の資料としては、ハウバーグの石碑（8.8.0.7.0、紀元199年）がありますが、欠損が多いです。これを例外とすると、最も古い日付はティカル石碑29号の8.12.14.8.15（292年）となります。

マヤの中心部の都市国家は9世紀に次々と崩壊し、10世紀に入ると長期暦はほとんど使われなくなりました。トニナのモニュメント101号 (10.4.0.0.0, 909年) が確実なものでは最も遅い日付を表しており、イツィムテ石碑6号にも10.4.1.0.0 (910年) の日付が記されていると言われています。

短期暦

スペイン人がマヤの地を訪れたときには、長期暦は既に使われていませんでしたが、簡略化された短期暦が後古典期のマヤ低地で使用されていました。この暦は、『チラム・バラムの書』のような後世の書物にも使われています。短期暦では、バクトゥンを使わず、カトゥンをその最後の日のツォルキンによる日付で呼んでいました。

この方式では、13カトゥン（約256年）で周期が一周します。

関連項目

2012年人類滅亡説：この暦にインスパイアされ、ニューエイジ以降に流行した終末論。
ユリウス通日、リリウス日：長期暦と同じく、特定の日を基点として日数を数え上げている暦。

外部リンク

暦相互変換システム（マヤの長期暦をグレゴリオ暦に変換するだけでなく、あらゆる暦同士を変換できる）'>暦相互変換システム：マヤの長期暦をグレゴリオ暦に変換するだけでなく、あらゆる暦同士を変換できる。
* グレゴリオ暦の日付を入力するとマヤ長期暦に変換する）'>maya calendar：グレゴリオ暦の日付を入力するとマヤ長期暦に変換する。

もう一度検索