長沼弘毅

長沼弘毅の生涯

長沼弘毅（ながぬま こうき）は、1906年11月21日に東京で生まれ、1977年4月27日に亡くなった日本の官僚、実業家、文芸評論家、翻訳家です。経済学博士号を持ち、柔道家としても講道館七段の腕前を持つ、文武両道の人物でした。俳優の平沼成基は彼の孫にあたります。

若き日と官僚への道

東京府立一中（現：都立日比谷高校）では、小説家の高見順や洋画家の刑部人らと同期でした。旧制静岡高校時代には、探偵小説に興味を持ち、生涯の盟友となる塚本憲甫と出会いました。また、この頃には柔道五段の腕前に達しています。1929年に東京帝国大学法学部政治学科を卒業後、大蔵省に入省しました。同期には、後に総理大臣となる福田赳夫や前尾繁三郎らがいます。

大蔵官僚としての活躍

大蔵省では、当初は傍流と見なされていましたが、馬場鍈一蔵相の時代に革新的な人事刷新が行われ、長沼は蔵相秘書官に抜擢されました。この人事では、省内の主流派が退任し、長沼がその刷新策を主導したとされています。その後、馬場の内務大臣就任に伴い内相秘書官となりますが、馬場の急逝により、長沼は広東へ異動となりました。

1938年からは、南支海軍特務部や興亜院華中連絡部で活動し、中南支方面で特務工作任務を担う「長沼機関」を設立しました。この時期、阿片売買に関与していた里見甫との関係も深まりましたが、終戦間際には岡崎嘉平太らと協力してその取引を止めようとしました。

その後、大蔵省に戻り、預金部資金運用課長、軍需省総務部総務課長などを歴任。終戦後は専売局塩脳部長として、塩の突貫輸送や自給製塩の創設に尽力しました。管理局長時代には、GHQとの交渉や在外財産問題の処理に携わりました。

大蔵次官と退官

1949年には大蔵次官に就任しましたが、池田勇人蔵相との意見の相違から辞任しました。退官後は、公正取引委員会委員長、公営競技調査会会長などを務めました。早稲田大学から経済学博士号を授与され、文筆活動も行いました。

文化人としての側面

長沼は、シャーロック・ホームズ研究の第一人者でもあり、ベイカー・ストリート・イレギュラーズの会員でもありました。また、江戸川乱歩賞の選考委員も務めました。作家の宇野浩二とは親交が深く、宇野の自宅の表札を書いたエピソードは有名です。著書には『和漢の散歩』などがあり、松尾芭蕉や与謝蕪村が李白や杜甫の詩形を俳句に取り入れていると指摘しました。

多様な才能と人柄

長沼は、その多才さだけでなく、人間味あふれる人柄でも知られていました。大蔵次官時代には、午前中に執務を終え、午後は労働法の研究やシャーロック・ホームズの研究に没頭していたと伝えられています。また、柔道家としても高い実力を持ち、多くの武道家との交流がありました。旧制静岡高校時代からの親友である塚本憲甫は、後に国立がんセンター総長を務めました。退官後には、貸スタジオ経営を計画し、音響設計を大賀典雄に依頼するなど、その行動力は晩年まで衰えることはありませんでした。

長沼弘毅は、その生涯を通じて、官僚、実業家、文化人として、多岐にわたる分野で卓越した才能を発揮し、日本の社会に大きな足跡を残しました。

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