長浜城 (伊豆国)

長浜城：戦国時代の海賊城

長浜城は、現在の静岡県沼津市内に位置し、戦国時代の海賊城としての遺構を色濃く残すことで知られています。この城は、伊豆国田方郡西浦庄長浜・重須（現在の沼津市内浦長浜・内浦重須）に築かれ、その歴史的価値から国の史跡に指定されています。

地理的特徴

長浜城が築かれた場所は、駿河湾が深く入り込んだ奥駿河湾に面した内浦地区です。特に、長浜城は内浦湾の海岸に位置し、西には長井崎、北には淡島があります。これらの地形的特徴により、長浜城周辺の海域は風波が穏やかで、船の停泊に適していました。海岸線からすぐに水深が深くなる地形も、軍事的な拠点として重要な要素でした。

駿河湾が急深になっているのは、この湾がプレート境界に形成されたためです。そのため、平地が少なく、大きな河川もありません。この地域では古くから漁業が中心でしたが、明治時代末期以降はミカン栽培が盛んになり、埋め立てによる地形改変も進みました。長浜城の周辺でも埋め立てが行われています。

長浜城は、発端丈山から西北西に延びる稜線の先端、内浦湾に突き出た標高約33メートルの岬に築かれました。この岬は「城山」と呼ばれ、長浜地区と重須地区の境界となっています。

歴史

戦国期の長浜・重須地域

長浜城のある長浜・重須を含む西浦7カ村は、15世紀末に北条早雲が伊豆を領国として以来、北条氏の直轄領でした。代官が任命され、現地の土豪が統治に当たっていました。重須は土屋氏が支配し、長浜にも影響力を持っていました。長浜には庄屋として大川氏がいましたが、後北条氏の朱印状には「西浦之百姓大川兵庫」という表現があり、武士ではなかったようです。駿河湾に面しているため、水運の拠点としても機能していました。

この時期の長浜城域の利用については詳しいことは分かっていませんが、縄張りや出土品から、15世紀後半から16世紀前半にかけて砦程度の構築物があったと考えられています。家永遵嗣は、この構築物が重須の土屋氏によるものである可能性が高いと見ています。

武田・後北条氏の抗争期

長浜城が戦略的に重要な拠点となったのは、武田氏と後北条氏の関係が悪化した1579年（天正7年）です。武田勝頼が両者の国境近くの沼津に三枚橋城を築城したのに対抗し、北条氏政は伊豆の主要拠点である韮山城を守るため、武田氏との国境を守る城郭の整備を進めました。特に、駿河湾から上陸して韮山城へ抜けるルートを押さえるために、海岸沿いに長浜城と獅子浜城を築城しました。

長浜城に関する最初の記録は、1579年11月7日の後北条氏の奉行衆である安藤良整が、長浜に船掛庭を普請するため、近隣の木負の百姓に労役を命じた文書です。この文書には「城」の名前はありませんが、後北条氏が長浜・重須一帯を駿河湾内の重要な軍港と認識し始めたことがうかがえます。12月には、後北条氏の船大将である梶原景宗を配置するための準備が行われました。江戸時代初期に記された軍記物『北条五代記』によると、梶原景宗親子をはじめとする6名の船大将が長浜城の西側の重須浦に居住し、軍舟を10艘作ったとされています。

翌1580年（天正8年）4月には、千本浜沖で駿河湾海戦と呼ばれる大規模な海戦が起こりました。この海戦の勝敗は不明ですが、その後も駿河湾を挟んで武田水軍と北条水軍は小競り合いを繰り返しました。この緊張状態は、1582年（天正10年）3月に武田氏が滅ぼされるまで続きました。

その後の長浜城

武田氏滅亡後、駿河の支配者となった徳川家康は、後北条氏と友好関係にあったため、長浜城は軍事上の重要拠点の地位を失いました。重須に駐留していた梶原景宗は、1583年（天正12年）に小田原に邸宅を購入しており、この時期には既に重須を離れていた可能性があります。

1590年（天正18年）、豊臣秀吉による後北条氏攻撃の際には、韮山城の枝城として長浜城にも兵力が配備され、地元の土豪である大川兵庫が城の守備を命じられました。しかし、武田氏と争っていた時期のような水軍拠点としての扱いは受けませんでした。長浜城が豊臣軍の侵攻時にどのように対応したかは不明です。築城時期、終焉時期の明確な記録はありませんが、韮山城開城と同時期に廃城になったと考えられています。

遺構

長浜城跡は、土塁を持つ第1曲輪から第4曲輪と小規模な曲輪群からなり、L字状に配置されています。各曲輪間には堀切が設けられ、山側に沿って土塁が巡らされています。

第1曲輪: 標高34メートルの最高所に位置し、北西ー南ー南東側に土塁があります。
第2曲輪: 長浜城跡で最も広い曲輪で、南北30メートル、東西15メートルの長方形で、南側と西側に土塁が築かれています。柱の跡が約200基あり、掘立柱建物跡が6棟と竪穴状掘立建物跡1棟が確認されています。

その他に12の曲輪E〜曲輪P、田久留輪の存在が確認されています。

水軍

北条氏は、水軍の切り札として紀伊国出身の海賊であった梶原景宗を北条水軍の大将として迎えました。梶原景宗は安宅船を北条水軍に導入し、対里見氏との戦いで戦果を上げており、その実績を評価され、駿河湾に進出してきた武田氏に備えた派遣とされています。

北条水軍は、安宅船や小早船などの軍船を保有していました。安宅船は、矢倉に侍が乗り込み、鉄砲玉を防ぐ椋の木板で囲われた堅牢な船でした。小早船は、地元の漁師衆の船を転用したもので、スピードを活かして敵船に乗り込む際に使用されました。

長浜城北条水軍まつり

2015年（平成27年）の史跡公園開園以来、長浜城では毎年「長浜城北条水軍まつり」が開催されています。この祭りでは、「小田原北條鉄砲衆保存会」や「小田原北條手作り甲冑隊」が参加し、海上からの文化財ツアーなどのイベントが行われています。

交通アクセス

路線バス: JR沼津駅から東海バスオレンジシャトル8番線「大瀬崎・江梨・木負」行きで約40分、「長浜城跡」下車、徒歩1分。
自動車: 東名沼津ICから県道83号線を南下し、国道246号線から国道414号線を経由、県道17号線を南下で約60分。

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