閃亜鉛鉱

閃亜鉛鉱：亜鉛の主要鉱石鉱物

閃亜鉛鉱(せんあえんこう、sphalerite)は、化学式ZnSで表される亜鉛の硫化鉱物です。その名称は、ギリシャ語で「欺く」を意味する言葉に由来し、かつては見た目から鉛鉱石と間違えられたことに起因するといわれています。

産出と共生鉱物

閃亜鉛鉱は、熱水鉱床、スカルン鉱床、黒鉱鉱床といった様々なタイプの鉱床で見られます。結晶の形がはっきりとしたものも存在しますが、多くの場合、塊状で産出します。しばしば方鉛鉱、黄鉄鉱、黄銅鉱などの硫化鉱物と共生しており、特に方鉛鉱との共生は顕著です。そのため、鉛と亜鉛の鉱床はまとめて鉛・亜鉛鉱床と呼ばれることが一般的です。

物理的性質と化学組成

純粋な閃亜鉛鉱は無色透明ですが、天然に産出するものは鉄分などの不純物を含むため、濃赤色から黒色まで様々な色を呈し、不透明であることが多いです。鉄の含有量が増加すると、色は白から黄色、橙色、赤色、濃赤色、そして黒色へと変化します。鉄分を多く含むものは、鉄閃亜鉛鉱と呼ばれます。また、カドミウムを含む場合もあり、カドミウムの含有量が高いほど赤みが強くなります。鉄分の少ないものは、べっ甲のような外観から「べっ甲亜鉛」と呼ばれることもあります。

閃亜鉛鉱は強い樹脂光沢またはダイヤモンド光沢を持ち、屈折率は2.37です。完全な劈開を示し、新鮮な結晶面や割れた面は光を強く反射します。しかし、長期間風化すると光沢を失います。紫外線を照射すると蛍光を示しますが、不純物の種類によって蛍光の色は変化します。結晶構造は閃亜鉛鉱型構造と呼ばれる特徴的な構造です。結晶形は四面体、八面体、十二面体など多様な形を取ります。

用途と経済的価値

現在、亜鉛鉱石として最も重要な鉱物であり、世界中の亜鉛生産の大部分を担っています。菱亜鉛鉱など、一部の例外を除き、亜鉛鉱石として産出される鉱物のほとんどが閃亜鉛鉱です。

閃亜鉛鉱は亜鉛以外にも、鉄、マンガンなどの元素に加え、微量ながらガリウム、カドミウム、インジウム、ゲルマニウム、銀などを含有します。産地によってはニッケルやコバルトを含むこともあります。特にガリウム、インジウム、カドミウム、ゲルマニウムは、それらを主成分とする鉱石が少なく、経済的に採掘できる量が限られているため、閃亜鉛鉱から副産物として回収されます。かつて日本の豊羽鉱山は、世界有数のインジウム生産量を誇っていました。

日本国内では、神岡鉱山、豊羽鉱山、小坂鉱山、花岡鉱山など多くの鉛・亜鉛鉱山で主要鉱石として採掘されてきました。海外では、オーストラリアやアメリカが主要な産地です。

閃亜鉛鉱グループとウルツ鉱

閃亜鉛鉱は、化学組成が同じZnSで結晶系が異なるウルツ鉱(wurtzite)という鉱物と密接な関係があります。閃亜鉛鉱が等軸晶系であるのに対し、ウルツ鉱は六方晶系で、繊維状やぶどう状の集合体として産出することが多く、「繊維亜鉛鉱」とも呼ばれます。しかし、ウルツ鉱はしばしば閃亜鉛鉱へと変化します。ウルツ鉱の名前は、フランスの化学者アドルフ・ヴュルツに由来しています。

閃亜鉛鉱グループには、閃亜鉛鉱以外にも、方硫カドミウム鉱、黒辰砂、シュティレ鉱、セレン水銀鉱、コロラド鉱などがあります。これらの鉱物は、いずれも硫化鉱物であり、化学組成や結晶構造に類似性があります。

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