関根賢

黎明期から組織結成まで

関根賢（せきね まさる）は、明治32年（1899年）1月20日、群馬県で生を受けた。彼の家系は、かつて家禄千二百石を有した武士の家であったという。旧制中学校を修了した後、土建業界に足を踏み入れたことが、彼のその後の人生を大きく変えるきっかけとなった。土建業を通じて、博徒としての顔も持っていた河合徳三郎と縁ができ、彼の盃を受けることとなる。

実兄が民政党院外団の常任幹部であったことから、関根は政界にも人脈を築いていった。大正8年（1919年）11月、床次竹二郎らの呼びかけにより、右翼の大物である頭山満を顧問に擁立し、土建業者や博徒を主体とする大日本国粋会が結成されると、関根は親分である河合と共にこれに参加した。しかし、民政党系の河合と政友会幹部だった床次との間に対立が生じ、河合は国粋会を脱会。民政党を後ろ盾とする大和民労会を新たに結成し、関根もこれに追随した。

昭和11年（1936年）になると、本所・向島地区の博徒や愚連隊を組織化し、向島に自身の土建業を冠した「関根組」の看板を掲げた。自身の組織において、配下の労務者には組合を結成することも許可している。

戦中・戦後の活動と組織の変遷

太平洋戦争中の昭和19年（1944年）夏、軍部から警視庁を経由して大和民労会に対し、国家への協力が要請された。これに応じた関根は、児玉誉士夫らと共に、戦争遂行に必要な鉄や銅といった資源の収集に奔走した。この活動には、後に彼の後継者となる藤田卯一郎も深く関わっている。

終戦後、関根は土建業としての活動を一層活発化させた。事業の拡大に伴い、自由党の実力者である吉田茂や鳩山一郎といった政界の大物からも祝花が贈られるほど、その影響力は増大した。昭和22年（1947年）4月の新憲法施行に伴う選挙では、傘下の組員を動員し、自由党候補者の選挙運動を支援している。

組織運営においては、藤田の発案を取り入れ、役職に応じたバッジ（大幹部には金、幹部には銀、準幹部には青）を導入。これにより、組員と非組員の識別を容易にしたとされる。

GHQによる弾圧と逮捕

昭和22年（1947年）4月の選挙終了後、連合国軍最高司令官総司令部（GHQ）は、内務省警保局を通じて全国の国家警察本部に対し、暴力団組織の一斉摘発と壊滅を指示した。この大規模な取り締まりの対象に、関根組も含まれていた。

同年7月8日、関根組は恐喝の嫌疑により捜索を受けた。この際、幹部の一人であった木津政雄が不法に隠匿していた航空機用機関銃が発見される。この機関銃不法所持容疑により、関根自身を含む関根組の幹部や多数の組員がGHQに検挙され、軍事裁判にかけられた後、服役することとなった。

関根は小菅刑務所に収監され、不在となった組織の運営を藤田に委ねた。しかし、組織は壊滅状態に追い込まれていたため、藤田は組織を存続させるべく新たに「藤田組」を結成した。しかし、藤田組も昭和24年（1949年）3月、GHQが発布した団体等規正令により解散を命じられ、消滅した。関根組もまた、同年6月には同様の命令を受けて解散、その歴史に幕を下ろした。

出所後の人生と松葉会結成への影響

関根が刑務所から出所した後、藤田卯一郎は昭和28年（1953年）3月、旧関根組の幹部であった久野益義や田山芳徳、木津政雄、和泉武志、武井紀義、山中吾一（後の榎戸一家五代目）らと共に、旧関根組および旧藤田組の組員たちを糾合し、松葉会を結成した。初代会長には藤田が就任している。この「松葉会」という名称は、関根のかつての親分である河合徳三郎の家紋が松葉であったことに由来しており、関根との縁の深さを示している。

関根自身は出所後、裏社会から完全に身を引き、実業家としての道を歩んだ。関根建設の社長として事業に専念し、生活の拠点を東京都葛飾区立石に移した。藤田もまた、関根の自宅近くに転居している。

表向きは事業家として生涯を過ごしたが、藤田をはじめとする松葉会の幹部たちとの個人的な交流は、その後も途切れることなく続いた。藤田は、関根の親戚であった極東関口一家初代・関口愛治が死去した際には、その位牌を自身の仏壇に祀り、朝夕拝んで冥福を祈ったというエピソードも残されている。

関根賢は昭和52年（1977年）にその生涯を閉じた。

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