阿蘇惟豊

阿蘇惟豊：戦国時代の肥後を駆け抜けた武将

阿蘇惟豊（あそ これとよ）は、戦国時代の肥後国（現在の熊本県）において、阿蘇氏の勢力を大いに高めた武将です。阿蘇神社の大宮司という神職の地位にありながら、戦国大名としての側面も持ち、激動の時代を生き抜きました。

阿蘇氏当主として

明応2年（1493年）に、阿蘇氏の当主である阿蘇惟憲の子として生まれた惟豊は、永正2年（1505年）に兄の惟長（菊池武経）から家督を譲られ、阿蘇氏の当主となります。しかし、惟長は肥後守護の菊池氏を乗っ取っており、そのことが阿蘇氏の内部対立を招きます。

永正10年（1513年）、惟長は阿蘇氏当主への復帰を目論み、惟豊を攻撃します。これにより、惟豊は日向国（現在の宮崎県）へと逃れることとなります。しかし、惟豊は高千穂鞍岡の国人である甲斐親宣の支援を受け、永正14年（1517年）には阿蘇氏の本拠地である矢部を奪還することに成功します。

その後も、惟豊は惟長とその子である惟前との間で抗争を繰り広げます。実に30年にも及ぶ長い戦いの末、天文12年（1543年）に堅志田城を落とし、惟前を敗走させることで、阿蘇氏の分裂に事実上の終止符を打ちました。

文化的な貢献

惟豊は、戦だけでなく文化面でも功績を残しています。天文18年（1549年）には、朝廷に御所修理料として1万疋を献納し、後奈良天皇から従二位に叙せられました。また、天文9年（1540年）には、後奈良天皇宸筆の「般若心経」を受納し、阿蘇上宮に社納したと伝えられています。

家族と悲劇

惟豊の娘は大友家重臣である入田親誠に正室として嫁いでいました。しかし、「二階崩れの変」で主家を追われた親誠を保護したものの、親誠が同事件の元凶の一人であったことを嫌い、天文19年（1550年）に誅殺しています。この出来事は、惟豊の決断力と冷徹さを示すものとして語られています。

晩年と墓所

永禄2年（1559年）、惟豊は波乱の生涯を終えました。彼の墓は、現在の熊本県山都町下市にあり、通潤橋や岩尾城がよく見える場所に位置しています。これは、阿蘇氏の歴史と、惟豊自身の足跡を今に伝える символとなっています。

阿蘇惟豊は、戦国時代の肥後国において、阿蘇氏の勢力を拡大し、文化的な発展にも貢献した傑物でした。彼の生涯は、戦国時代の武将としての生き方を示すとともに、地域社会への貢献という側面からも評価されています。

参考文献

熊本日日新聞編纂・発行『熊本県大百科事典』、1982年
阿蘇惟之編『阿蘇神社』学生社、2007年

もう一度検索