陸軍憲兵学校

陸軍憲兵学校について

陸軍憲兵学校は、大日本帝国陸軍における憲兵の養成を目的とした軍学校です。その前身は1899年に設立された憲兵練習所であり、1937年に陸軍憲兵学校令によって昇格しました。

教育内容

学生は当初、「士官学生」「下士学生」「上等兵学生」の3つの区分に分かれており、それぞれ6ヶ月の修業期間を経て卒業していました。入学資格は現役の軍人に限られ、憲兵科の将校は他兵科から転科した者が対象でした。

1920年の制度改正により、学生区分は士官対象の「甲種学生」と、下士官対象の「乙種学生」「丙種学生」に変更されました。この際、士官の修業年限は10ヶ月に延長されています。1937年からは、憲兵科の最下級である憲兵上等兵候補者も教育対象となり、これは日中戦争の勃発に伴う憲兵需要の増加に対応したものでした。

憲兵学校では、憲法、行政法、警察法、陸軍刑法、海軍刑法、刑事訴訟法、陸軍軍法会議法、海軍軍法会議法、民法、国際法といった法律科目のほか、社会学、法医学、外国語などの一般教養、そして剣道、柔道、馬術、捕縄術といった実技科目も習得しました。特に、甲種学生の首席卒業者には侍従武官から銀時計が授与されるという栄誉がありました。

憲兵への志願は給与の高さ（当時、上等兵の月給が8円80銭だったのに対し、憲兵上等兵は100円）から非常に人気があり、小学校卒が多かった当時の兵士にとって、卒業試験は非常に難関でした。

学校の所在地と秘密

陸軍憲兵学校は東京の中野に位置しており、隣にはスパイ養成機関である陸軍中野学校がありました。しかし、中野学校は軍内部でも秘匿された存在であり、憲兵学校の生徒はその存在すら知らなかったと言われています。戦後、陸軍中野学校が有名になると、「憲兵学校を中野学校と呼んでいた」という誤解が生じ、憲兵学校の卒業生が中野学校を題材とした映画制作に協力したという逸話があります。この誤解は、映画に関わっていた本物の中野学校卒業生との出会いによって発覚しました。

歴代の学校長

憲兵練習所長（兼任含む）

石丸言知憲兵少佐：1902年4月1日 -
薬師川常義憲兵少佐：1906年4月6日 -
中島矩貞憲兵少佐：1907年10月3日 - 1910年11月30日
藤田耕一憲兵少佐：1910年11月30日 - 1911年8月15日
那須太三郎憲兵少佐：1911年8月15日 - 11月22日
藤田耕一憲兵中佐：1911年11月22日 - 1912年9月2日
峯幸松憲兵少佐：1912年9月2日 - 1913年2月18日
山口鹿太郎憲兵少佐：1913年2月18日 - 1916年7月25日
三根昇一憲兵中佐：1916年7月25日 -
小山介蔵中佐：1918年7月24日 - 1920年8月10日
林茂樹憲兵中佐：1920年8月10日 -

陸軍憲兵学校長

島本正一少将：1937年8月2日 - 1938年11月10日
馬場亀格少将：1938年11月10日 - 1940年3月9日
城倉義衛少将：1940年3月9日 - 1940年12月2日
三浦三郎少将：1940年12月2日 - 1942年8月1日
納見敏郎少将：1942年8月1日 - 1944年1月17日
石田乙五郎少将：1944年1月17日 - 1944年11月22日
木下栄市少将：1944年11月22日 - 終戦

卒業生と首席卒業者

過去には首席卒業者が官報で告示されていましたが、全てが明らかになっているわけではありません。また、大正10年以降の首席卒業者は卒業時に転科はしていません。

憲兵練習所士官学生の卒業期と首席卒業者

1期：不明
2期：明治33年：不明
3期：明治34年：不明
4期：明治35年：不明
5期：明治36年：不明
6期：明治37年：不明
7期：明治38年：不明
8期：明治39年：不明
9期：明治40年：不明
10期：明治41年：不明
11期：明治42年：不明
12期：明治43年6月28日／長谷部巌憲兵中尉
13期：明治44年6月29日／長久保晴憲兵中尉
14期：明治45年6月28日／平田鉄次郎憲兵中尉
15期：大正2年7月10日／竜蛇辰之助憲兵大尉
16期：大正3年6月29日／三宅篤夫憲兵大尉
17期：大正4年6月26日／沼川佐吉憲兵中尉
18期：大正5年6月29日／二宮晋一憲兵中尉
19期：大正6年6月29日／城倉義衛憲兵中尉
20期：大正7年6月29日／牛島鼎憲兵中尉
21期：大正8年5月31日／増岡賢七憲兵中尉
22期：大正9年6月29日／石田乙五郎憲兵中尉

憲兵練習所甲種学生の卒業期と首席卒業者

1期：大正10年6月28日／山田保歩兵中尉（同期に甘粕正彦憲兵大尉がいる）
2期：大正12年6月15日／磯高麿歩兵中尉
3期：大正14年6月18日／谷本邦夫歩兵大尉
4期：大正15年6月18日／大石正幸歩兵中尉
5期：昭和2年6月21日／四方諒二歩兵大尉
6期：昭和3年6月21日／三浦三郎歩兵大尉
7期：昭和4年6月20日／門田善実輜重兵大尉
8期：昭和5年6月20日／大谷敬二郎歩兵大尉
9期：昭和6年6月24日／井部重郎騎兵大尉
10期：昭和7年3月14日／中村通則歩兵大尉
11期：昭和7年11月14日／塚本誠歩兵中尉
12期：昭和8年12月21日／玉岡巌輜重兵大尉
13期：昭和9年12月20日／石原健一輜重兵大尉
14期：昭和10年12月21日／永田勝之輔歩兵大尉
15期：昭和11年12月21日／横田昌隆歩兵大尉

陸軍憲兵学校甲種学生の卒業期と首席卒業者

1期：昭和12年12月21日／政狩三徳歩兵大尉
2期：昭和13年9月：不明
3期：昭和14年4月21日／川江正敏砲兵少佐

参考文献

金岡正一『報告　私の太平洋戦争　敵中潜行戦犯獄中記』(私家版？著者は昭和12年卒)
中島實『敵中潜行三千里日ソ戦敗残の記録』2008年、文芸社
『官報』

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