陸軍特別幹部候補生

陸軍特別幹部候補生（特幹）

陸軍特別幹部候補生（りくぐんとくべつかんぶこうほせい）は、太平洋戦争（大東亜戦争）末期の日本陸軍において、下士官の急速な補充を図るために設けられた制度に基づき採用された若年志願兵を指します。「特幹（とくかん）」と略称されることもありました。

この制度は、戦況の悪化に伴い、特に航空、船舶、通信、技術といった専門技能を要する兵科の戦力強化が喫緊の課題となったことから創設されました。それ以前にも、陸軍には陸軍少年飛行兵や陸軍少年通信兵など、若年者を対象とした軍学校生徒として長期間教育する少年兵制度がありましたが、より短期間で実戦に投入可能な下士官を育成する必要が生じたのです。

制度の創設と展開

陸軍特別幹部候補生制度は、1943年（昭和18年）12月14日に公布された「陸軍現役下士官補充及服役臨時特例（勅令第922号）」によって定められました。この勅令は、「航空、船舶、通信、技術等関係部隊ノ戦力ヲ急速ニ強化スル為実務教育ヲ主トスル下士官補充制度」として、戦時下における臨時の措置であることを明記していました。

制度制定の翌日、1943年12月15日には、航空関係（操縦・技術・通信）と船舶関係の要員について最初の召募が開始されました。そして、1944年（昭和19年）4月、最初の採用者が各地の教育機関へ入校または入隊しました。航空関係の操縦要員は大刀洗陸軍飛行学校などに、整備要員は所沢陸軍航空整備学校や各地の教育隊へ、通信要員も陸軍航空通信学校の分校・教育隊や関連部隊へそれぞれ配属され、教育を受けました。船舶関係の採用者は、香川県に編成された船舶兵特別幹部候補生隊に入隊しました。

1944年中は、4月の初回に続き、8月（一部9月）と12月にも採用が行われました。時期によって兵種の追加や教育場所の変更があり、特に9月採用からは当初予定になかった鉄道関係要員が加わりました。また、1945年（昭和20年）には採用される兵種の範囲がさらに広がり、戦車兵、高射兵なども特幹として採用されました。これに伴い、少年戦車兵学校や東京陸軍少年通信兵学校といった既存の少年兵教育機関でも、特幹を別枠で受け入れて教育を実施しました。さらに、1944年10月の告示により、電波兵器（レーダー）関係の要員召募も始まりました。こちらは一般の特幹とは異なり、中等教育学校で電気・通信を履修した者など、関連分野の知識や技能を持つ者を対象としていました。

各兵種が個別に、かつ段階的に採用されたため、総採用数の正確な把握は困難ですが、終戦までに7万名以上が採用されたと推測する文献もあります。

候補生の資格、教育、階級

特幹の採用資格は、満15歳以上20歳未満の男子志願者で、学歴は問われませんでした。ただし、速成教育に対応できる能力を確認するため、採用試験の内容は中学校3年生の2学期修了程度とされていました。試験は身体検査、口頭試問、学科試験で構成されました。

採用された特幹は、採用の日から2年間現役に服することと定められていました。これは戦時下の臨時制度であるため、短期現役でしたが、本人の希望により現役期間を延長することも可能でした（ただし、終戦により実例はありません）。教育は実務に重きを置いて行われましたが、戦況の悪化に伴い、当初の計画よりも教育期間が短縮され、早期に実戦部隊や官衙（役所）へ配属されるケースも見られました。

候補生の階級は、採用と同時に一等兵に任じられ、6か月後に上等兵、さらに6か月後に兵長へと進級しました。そして、約1年6か月の課程を修了した後に下士官に任じられることとされていました。一般的には伍長でしたが、中等教育学校以上の学歴を持つ者や、技能が特に優秀な者は軍曹に任じられることも可能でした。1944年4月や8月に採用され、兵長として終戦を迎えた候補生は、終戦に伴う特別進級により兵籍上は下士官まで昇進しています。また、海上挺進戦隊などに所属し、フィリピンなどの戦地へ出征した候補生には特別措置が講じられ、軍曹に任官されました。

給与面では、特幹は採用された時点から現役の一等兵として月額9円の月給が支給されました。これは陸軍少年兵が月額4円程度の手当であったのと異なり、正規の兵士と同等の扱いを受けていたことを示します。

他の制度との違い

陸軍には特幹と名称が類似した制度がいくつか存在しましたが、それぞれ目的や対象が異なっていました。

陸軍少年兵は、陸軍諸学校の生徒であり、学校を卒業し下士官に任官するまでは厳密には軍人ではありませんでした（ただし、少年飛行兵は訓練中の殉職に対応するため、基礎教育終了後に志願兵として正規兵扱いとなりました）。これに対し、特幹は採用の時点から現役の兵士（一等兵）でした。

また、予備役将校となる甲種幹部候補生や、予備役下士官となる乙種幹部候補生は、いずれも一定期間在営した兵の中から、中等教育学校卒業以上の学歴を持つ者が選抜される制度でした。特幹は志願制であり、学歴要件も緩やかであった点でこれらとは明確に異なります。ただし、特幹から改めて志願・試験を経て甲種幹部候補生に転ずる例はありました。さらに、1944年5月に制定された特別甲種幹部候補生制度は、高等教育機関の学歴を持つ民間からの志願者を対象に、予備役将校を育成するもので、対象者の年齢や学歴、補充する役職などが特幹とは異なっていました。

終焉

特幹は、その教育期間の短さから、各兵種で実戦部隊の中核として投入されました。特に航空や船舶関係の候補生の中には、陸軍海上挺進戦隊などの特別攻撃隊員として多数が戦死しました。

1945年（昭和20年）8月15日、日本がポツダム宣言を受諾して終戦を迎えると、陸軍はその機能を停止しました。特幹の制度も、新たな勅令による正式な廃止を待つことなく、事実上自然消滅しました。

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