静岡オリオン座

静岡オリオン座：記憶と映画の殿堂

静岡オリオン座は、かつて静岡県静岡市葵区七間町に存在した映画館です。1951年の開館以来、2011年の閉館まで、静岡の映画文化を牽引し、多くの人々に愛されました。ここでは、その輝かしい歴史を振り返ります。

概要

静岡オリオン座は、静活株式会社によって運営されていました。1951年12月31日、青葉通りと昭和通りの北西角に初代が開館。1971年には、七間町通りと昭和通りの南西角、静岡松竹劇場跡地に移転し、2代目オリオン座として新たな歴史を刻みました。

2011年10月2日、静活が新静岡セノバにシネシティザートを開館する直前に、惜しまれつつ閉館。「東海一の大スクリーン」として知られ、多くの映画ファンにとって特別な場所でした。

基礎情報

初代オリオン座（1951年～1971年）

所在地：静岡県静岡市七間町
スクリーン数：1館（オリオン座）

2代オリオン座（1971年～2011年）

所在地：静岡県静岡市葵区七間町15（静活会館）
スクリーン数：2館（オリオン座、有楽座）

歴史

初代オリオン座（1951年～1971年）：娯楽の街、七間町の象徴

七間町は、静岡市における娯楽の中心地として発展し、演劇や映画が盛んな場所でした。1897年には静岡県で初めて活動写真が上映され、1913年には県内初の映画館が開館するなど、常に文化の発信地でした。

1951年12月31日、初代オリオン座が七間町に開館。初上映作品はゲイリー・クーパー主演の『ダラス』でした。当時としては珍しい鉄筋コンクリート造りの映画館で、ハリウッド作品を中心に上映し、多くの観客を魅了しました。

1955年には、開館4周年記念として、映画の入場者全員を対象に抽選会を実施。電気洗濯機や電気蓄音機が当たるという豪華な企画は、当時の話題を集めました。また、同年には静岡駅前に本店を構える喫茶店「金清軒」がオリオン座内に支店をオープン。映画ファンにとっては、観賞前後の休憩スポットとしても親しまれました。

1959年には、映画監督のアルフレッド・ヒッチコックが日本を訪れ、静岡駅で写真撮影やサインに応じました。オリオン座では、ヒッチコック監督の『泥棒成金』、『めまい』、『北北西に進路を取れ』、『サイコ』、『鳥』といった名作が上映され、多くの観客を動員しました。

オリオン座が入る建物は3階建ての総合娯楽ビルで、映画館の他にもレストラン、喫茶店、クラブ、美容院など様々な施設が入っていました。1960年時点で、オリオン座の座席数は1,100席。2階には追加料金が必要な「ロイヤルボックス」と呼ばれる特別席も設けられていました。また、静活は、オリオン座を含め4棟の映画館ビルを所有し、静岡市の映画文化を支えていました。

1960年代には、日本の映画観客数と映画館数がピークを迎えました。1960年の静岡市には24館、1962年には27館の映画館が存在し、オリオン座もその一翼を担っていました。静活は、市内各地で多数の映画館を運営し、地域の人々に映画というエンターテイメントを提供していました。

初代オリオン座の最終興行作品は『栄光のル・マン』。1971年10月19日をもって閉館し、20年の歴史に幕を閉じました。跡地には、後に静岡朝日テレビの社屋が建設されました。

2代オリオン座（1971年～2011年）：新たな場所での挑戦

1970年代に入ると、映画業界は斜陽産業へと変化していきます。1971年には大映が倒産し、その影響で静岡大映が閉館。その後、静岡松竹劇場があった場所に移転し、2代目オリオン座がオープンしました。

移転後の初上映作品は『夕陽の挽歌』でした。建物の正面に飾られた巨大壁画は、静岡松竹時代に完成したものでした。同年には、松竹専門の静岡松竹劇場と、洋画専門の有楽座も開館。オリオン座は、新たな場所で再スタートを切りました。

1974年、正月興行で上映された『燃えよドラゴン』は大ヒットとなり、ブルース・リーファンを生み出しました。同年7月には、七夕豪雨によって有楽座が床上浸水。しかし、その直後には『エクソシスト』が公開され、洋画の観客動員数記録を更新しました。

1990年3月には座席を一新し、改装オープン。座席の横幅が53センチに広がり、前後幅も広くなりました。オリオン座は、幅17メートル×高さ8メートルの大型スクリーンが特徴で、これは常設映画館としては全国最大規模でした。1992年には、「七ぶらシネマ通り」という愛称が付けられ、映画の街としての賑わいを取り戻す試みがなされました。

1998年には、車いす用の階段昇降機を設置。以前は職員が車いすごと運んでいたというエピソードからも、オリオン座の温かい姿勢が感じられます。

2003年6月には、静岡県初となるプレミアシートを導入して改装オープン。座席幅は60センチと広くなり、足元も広くなりました。外壁のモザイク画も補修され、リニューアル後の最初の作品は『マトリックス リローデッド』でした。

2007年6月には、初代から数えて50周年を迎え、記念イベントを開催。同年には、映画『オリヲン座からの招待状』が公開され、オリオン座の歴史が映画を通じて語られました。

2010年時点では、七間町に5館13スクリーンが存在し、「映画街」としての規模は全国でも稀有な存在でした。しかし、2000年代に入るとシネマコンプレックスが各地に広がり、静活もシネコン建設の計画を立て、2011年10月2日、オリオン座を含む七間町の4館9スクリーンは全て閉館しました。閉館から3日後には、新静岡セノバにシネシティザートが開館し、新たな映画時代が始まりました。

オリオン座の最終上映作品は、木下惠介監督の『二十四の瞳』。上映終了後には、観客からの拍手や感謝の声が響き渡りました。かつて全国に存在した「オリオン座」は、静岡オリオン座の閉館と共に姿を消しました。

閉館後

オリオン座の閉館後、巨大壁画の保存活動が行われ、モニュメントが制作されました。「アトサキ7プロジェクト」と題した賑わい創出活動も行われ、オリオン座跡地のビル壁面には、名作映画が投影されました。壁画から製作されたモニュメントは、静岡市上下水道局庁舎の正面入口に設置され、今もその姿を見ることができます。

特色

初代オリオン座

初代オリオン座のキャッチコピーは「東海随一! 世紀の映画殿堂!」。
詩人・小説家の三木卓は、開館記念公演『ダラス』を鑑賞した際の思い出を語っています。また、高校時代には、映画の内容について校内新聞で批判的な記事を書いたことも明かしています。オリオン座は、当時としては豪華な映画館だったと評しました。

小説家の村松友視も、中学・高校時代にオリオン座に通っていたと語っています。西部劇や『回転木馬』、『真夏の夜のジャズ』などの作品を鑑賞したそうです。

初代オリオン座は、収容人数、スクリーンの大きさ、共に全国最大級であり、「東海一」の劇場として知られました。週末には行列ができるほどで、軽食を売る売り子もいたそうです。オリオン座は、七間町の象徴的な存在でした。

2代オリオン座（静活会館）

2代オリオン座の巨大壁画は、七間町を象徴する存在でした。この壁画は、ジョルジュ・スーラの「グランド・ジャット島の日曜日の午後」を模して作られました。165万個もの美濃焼のタイルが使用され、製作には1年以上の歳月が費やされました。

広い待合室や曲線の階段が特徴で、非日常的で高級感のある空間でした。ロビーにはシャンデリアや彫刻作品が飾られ、2階の特別席には日本画が飾られていました。ロビーや廊下にも多数の絵画が飾られていました。

建物正面には、「LIVE TODAY（今を生きる）」というメッセージが掲げられ、多くの人々に勇気を与えていました。また、大きなステージや楽屋、風呂場なども備えられており、実演や舞台挨拶にも対応できる多機能な映画館でした。

小説家の諸田玲子は、オリオン座やミラノ、有楽座などの映画館について「今もなつかしく思い出します」と語り、映画監督の浜野佐知も、オリオン座を「もう一つの学校のようなもの」と評しています。

まとめ

静岡オリオン座は、静岡の映画文化を支え、人々の心に深く刻まれた映画館でした。その歴史と記憶は、これからも語り継がれていくことでしょう。

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