音響カプラ

音響カプラ：電話回線とコンピュータを繋いだ、アナログ時代の通信機器

音響カプラは、コンピュータを公衆交換電話網（PSTN）に接続するためのアナログ時代の通信機器です。電話機の受話器と、モデムに接続されたスピーカーとマイクを近づけることで、音声信号を介してデータ通信を実現しました。モデムとの接続には専用のケーブルを使用し、電話機の受話器は音響カプラ本体に装着します。ダイヤルアップ接続には、電話機のダイヤルを直接回すか、トーン回線であればモデムからの自動発信が可能です。

音響カプラの仕組みと進化

初期の音響カプラは、変復調機能を内蔵し、RS-232Cなどの通信インターフェースを備えていました。しかし、後に音響と電気信号の変換機能のみを持つようになり、モデムと組み合わせて使用されるようになりました。このシンプルな構造により、製造や運用上の制限が少なく、認証済み電話機との組み合わせであれば容易に利用可能でした。

通信速度は、初期の300bpsから、1989年頃には1200bps～2400bps、2005年には28.8Kbpsの製品が登場するなど、徐々に高速化していきました。ただし、音声信号を用いるため、周囲のノイズや振動の影響を受けやすく、通信の安定性に欠ける点が課題でした。

日本における音響カプラの歴史と衰退

1980年代前半の日本では、PSTNへのモデム接続には様々な規制がありました。そのため、加入者回線を使ったデータ通信には、網制御装置（NCU）か音響カプラが用いられていました。しかし、1985年の通信自由化とモジュラージャックの普及により、技術認定を受けた端末であれば誰でも加入者回線に接続できるようになり、状況が一変しました。

これにより、安定した通信が可能なNCU内蔵モデムが音響カプラに取って代わるようになり、1989年頃には音響カプラはほとんど使われなくなりました。その後は、主に営業担当者が公衆電話から営業データを会社に送信するといった用途などに限定的に利用されました。

しかし、ISDN対応公衆電話の普及、PHSや携帯電話、無線LANといった新たなデータ通信手段の台頭により、音響カプラの役割は急速に終焉を迎えました。現在では、歴史的な通信機器としてのみ存在感を残すに過ぎません。

音響カプラのメリットとデメリット

メリット:
電話回線を利用できるため、特別な回線設備が不要
比較的安価に導入可能
PSTNと電気的に接続しないため、製造・運用上の規制が少ない

デメリット:
通信速度が遅い
通信が不安定で、ノイズの影響を受けやすい
電話回線の品質に依存する
* 設置や操作に手間がかかる

音響カプラは、現代の高速で安定した通信環境からはかけ離れた、アナログ時代の遺物と言えるでしょう。しかし、コンピュータと電話回線を繋ぐという、当時の画期的な技術革新を象徴する機器として、その歴史的意義は依然として重要です。

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