順 (王朝)

大順（だいじゅん）とは

大順（1644年 - 1649年）は、李自成が明朝を滅ぼした後に建国した政権です。李自成の勢力は当初、西安を首都としていましたが、北京を占領後、改めて北京を首都と定めました。しかし、その政権は短命に終わり、中国史において特異な位置を占めています。

建国までの経緯

明朝末期、政治腐敗と相次ぐ天災により民衆の不満は頂点に達しました。農民たちは各地で反乱を起こし、その中で頭角を現したのが李自成です。当初、農民軍はゲリラ戦術を駆使して明軍に対抗していましたが、1636年に指導者である高迎祥が戦死すると、李自成がその後を継ぎ「闖王」と称しました。

1641年、李自成は洛陽を攻略し、福王朱常洵を殺害すると同時に大量の軍糧を確保します。1643年10月には潼関を攻撃、11月には西安を占拠し、1644年に西安にて順の建国を宣言、元号を永昌と定めました。その後、李自成の勢力は破竹の勢いで大同、宣府、居庸関を次々と攻略し、1644年3月18日には北京外城に到達。翌日未明、崇禎帝が北京煤山にて自縊し、明朝は滅亡しました。

衰退と滅亡

当初、大順は北京の他に太原や大同などの主要地域を支配していましたが、山海関の明将である呉三桂への対応を誤ったことが、その後の衰退を招くことになります。建国宣言直後に清軍が侵入し、その勢力は急速に衰退します。

1644年4月21日、李自成は呉三桂への親征を試みますが失敗し、その直後の4月29日に慌ただしく即位式を終えると、紫禁城に火を放ち西安へと逃れました。その後、潼関で清軍を迎え撃ちますが、この時は清軍の主力である大砲が到着していなかったため勝敗は決しませんでした。しかし、翌1645年、清軍は紅夷大砲を駆使して潼関を突破し、李自成は襄陽を経て湖北に逃亡。その後、江西へと逃れるも、1645年5月に湖北省通山県の九宮山にて農民の自警団によって殺害されました。

その後も李自成の一族である李自敬と李過が相次いで順の皇帝に即位し、清に対して徹底抗戦を続けましたが、1649年に順は完全に滅亡しました。

大順の位置付け

大順は、長期安定した政権としての基盤を築く前に崩壊したため、清朝、中華民国、中華人民共和国のいずれにおいても正史が編纂されていません。そのため、歴代王朝のように「順」と省略して呼ばれることは少なく、「大順国」という正式名称で表記されることが一般的です。

しかし、明朝が清朝によって滅ぼされたのではなく、李自成の勢力によって滅ぼされたことは歴史的事実です。その後、清朝は簒奪者である李自成の打倒を大義名分としてその勢力を滅ぼし、中国支配に着手しました。そのため、李自成の順を地方政権としてではなく、明清交代期に存在した短命王朝として扱うべきであるという意見も存在します。

また、中国では共産党の階級闘争史観の影響により、農民反乱によって政権を打倒した李自成を高く評価する傾向があります。

大順の興亡は、明朝末期の社会矛盾と清朝の台頭という、中国史における重要な転換期を象徴する出来事と言えるでしょう。

もう一度検索