頼住光子

頼住光子（よりずみ みつこ）

1961年生まれの日本の倫理学者で、現在、東京大学の教授を務めています。専門分野は日本の倫理思想史、特に禅僧である道元の思想を中心に深く研究されています。

神奈川県で育ち、本姓は佐藤です。学歴としては、1983年にお茶の水女子大学文教育学部哲学科を卒業しました。その後、東京大学大学院人文科学研究科に進み、倫理学専攻の博士課程を1991年に満期退学しています。研究活動の集大成として、1994年には「道元における善と悪 -「正法眼蔵」「諸悪莫作」巻の註解のこころみ」という論文で、東京大学より文学博士の学位を取得しました。

研究者としてのキャリアは、1989年に松本短期大学と工学院大学で非常勤講師を務めたことから始まりました。1991年には山口大学の講師となり、1995年には同大学の日本思想史講座で助教授に昇任しました。1996年にはお茶の水女子大学文教育学部の助教授に転じ、教育・研究活動を続けました。2007年からは法政大学文学部で非常勤講師を務め、2011年には同大学院の教授に就任しています。同年、放送大学足立センターの客員教授も兼任しました。そして、2013年からは東京大学人文社会系研究科の倫理学専門分野で教授として教鞭を執り、現在に至ります。

専門分野である日本倫理思想史、特に道元思想の研究において顕著な業績を挙げており、博士論文のテーマに見られるように、道元の著作『正法眼蔵』における「善」と「悪」といった倫理的側面に着目した研究は高く評価されています。この研究は、単に思想史的な分析にとどまらず、現代における倫理的な課題を考える上でも重要な示唆を与えています。

学術研究や教育活動に加え、様々な社会活動にも貢献しています。1992年には大学入試センターの出題委員を務め、大学教育の入り口に関わりました。また、2001年から2002年にかけては科学研究費委員会の専門委員として日本の学術研究の推進に寄与し、2010年には文部科学省の教科用図書検定調査審議会の専門委員として、教育内容の質の確保にも関与しています。

著作活動も精力的に行っており、主要なものとして、道元思想を解説した『道元 自己・時間・世界はどのように成立するのか』(日本放送出版協会)、『道元の思想 大乗仏教の真髄を読み解く』(NHKブックス)、『正法眼蔵入門』(角川ソフィア文庫)などがあります。これらの著作を通じて、難解とされる道元思想を一般読者にも分かりやすく解説し、その魅力を伝えています。他にも、日本仏教思想全般に関する著作『日本の仏教思想 原文で読む仏教入門』(北樹出版)や、日本の精神文化を探求した『さとりと日本人: 食・武・和・徳・行』(ぷねうま舎)などがあります。

共著も多く、保坂俊司氏、新免光比呂氏らとの『人間の文化と宗教』、『人間の社会と宗教』、『人間の文化と神秘主義』といった比較宗教に関する著作シリーズや、末木文美士氏との『日本仏教を捉え直す』（後に増訂版『日本仏教再入門』として講談社学術文庫）などがあります。これらの共著は、共同研究を通じて多様な視点から宗教や文化を考察する姿勢を示しています。

また、ヘルマン・オームス著『徳川イデオロギー』の翻訳にも共訳者として参加しており、海外の研究者の視点を通じて日本思想史を考察する重要な文献を日本語圏に紹介する貢献もしています。

頼住光子氏は、長年にわたり日本倫理思想史の研究、特に道元研究において第一線で活躍し、多くの著作や教育活動を通じて、その学識を広めるとともに、学術振興や社会貢献にも多角的に携わっている、日本を代表する倫理学者の一人と言えます。

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