風雅和歌集

風雅和歌集（ふうがわかしゅう）

『風雅和歌集』は、室町時代（南北朝時代）に北朝で編纂された勅撰和歌集であり、二十一代集の中で17番目に位置します。全20巻、2211首を収録し、光厳上皇が親撰、花園法皇が監修を務め、京極派の歌風を基調としています。

成立の背景

1303年、京極為兼とその一派は、伏見院の支援を受け、革新的な京極派歌風を確立しました。1312年には、伏見院の命により京極為兼が『玉葉和歌集』を編纂し、京極派の特性を広く示しました。
伏見院は後伏見院と花園院に対し、和歌の振興を促し、勅撰集編纂の際には永福門院と鷹司冬平に相談するよう遺言しました。崩御直前にも、京極派による勅撰集の再編纂を強く望んでいました。

伏見院の崩御後、政権は大覚寺統に移りますが、後に持明院統の北朝が開かれ、光厳院が治天の君となります。北朝において、撰集の直接的な契機となったのは、京極派歌壇を主導していた永福門院の死でした。光厳院は服喪明け後、歌会を積極的に開催。永福門院の遺志を継ぎ、勅撰集編纂への意識を高めました。

撰集の経緯

光厳院は1342年頃から室町幕府に勅撰集編纂を働きかけ、1344年、足利直義との協議を経て、幕府から正式に奏上が行われました。1345年4月10日、光厳院親撰、花園院監修のもと、撰集作業が開始されました。正親町公蔭、二条為基、冷泉為秀らが寄人として協力しました。

勅撰集への入集希望者は、武家は勧修寺経顕、その他は洞院公賢と冷泉為秀を通じて和歌を提出するよう定められました。1347年4月25日には、撰集の材料として「応制百首」が下命され、光厳・花園両院を含む34名が詠進しました。中には足利尊氏・直義兄弟も含まれていました。

1347年春頃、正本の清書は尊円法親王が担当することとなり、同年10月17日、勅撰集の題名が『風雅和歌集』と決定されました。「王道が正しく行われている時の和歌を集成した歌集」という意味が込められていますが、花園院は一般的な「詩歌・文章の道」の意味にしか理解されないことを懸念していました。

同年11月9日、持明院殿にて風雅集の竟宴が行われました。本来は全巻完成後に行われるべきでしたが、花園院の健康状態を考慮し、両序と春上一巻の完成をもって開催されました。その後も編纂作業は続けられ、1349年8月頃に全巻が完成したと考えられています。

特色

『風雅和歌集』は、『新葉集』と比較して、戦乱などの事件をありのままに記している点が特徴です。また、武士の和歌も多く収録されており、武士道を詠んだとされる歌も含まれています。光厳院の治世に関する述懐や、民を思う為政者の歌として直義の歌が採られている点も注目されます。

歌風としては、花・時鳥・月・雪といった伝統的な題材に加え、山家の歌が多く採られています。自然観照においては、光・時・動きが感じられ、感覚的に研ぎ澄まされた表現が用いられています。漢詩の影響を受けた特異な歌材も用いられており、漢詩的隠遁、隠逸の境地を象徴するものとされています。

評価と変遷

『風雅和歌集』は、京極派和歌の集大成として編纂されましたが、観応の擾乱により京極派が衰退し、長らく異端の歌集として冷遇されました。しかし、近代に入り、与謝野鉄幹、折口信夫らによって再評価され、現在では『新古今和歌集』以後の中世和歌史上、最も注目すべき歌集の一つとして評価されています。

岩佐美代子は、「風雅集は玉葉集の祖述継承に違いないが、歌境を更に深め、内観性において特に沈潜した哲学的境地にまで至っている。為兼・伏見院の志した歌風は、ここに見事に完成した」と評しています。

構成

序文
真名序
仮名序
巻第一～巻第三：春歌（上・中・下）
巻第四：夏歌
巻第五～巻第七：秋歌（上・中・下）
巻第八：冬歌
巻第九：旅歌
巻第十～巻第十四：恋歌（一～五）
巻第十五～巻第十七：雑歌（上・中・下）
巻第十八：釈教歌
巻第十九：神祇歌
* 巻第二十：賀歌

風雅集は、古今集以降、『古今集』・『新古今集』・『続古今集』・『新続古今集』と風雅集の5集のみが両序を備えています。花園院による序文は、光厳院の立場から記されており、花園院の学識と才が発揮された格調高い作品となっています。

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