飛驒トンネル

飛騨トンネル：難工事を乗り越え開通した北陸自動車道の要

飛騨トンネルは、岐阜県の飛騨市と大野郡白川村を結ぶ、東海北陸自動車道に位置する全長10,712mの長大トンネルです。道路トンネルとしては、山手トンネル、関越トンネルに次いで日本で3番目、世界でも12番目の長さを誇ります。

概要

飛騨トンネルは、長大トンネルでありながら、九州自動車道の肥後トンネルと同様に、トンネル内に県境が存在しません。暫定2車線で開通しているため、対面通行となっており、特に下り線（小矢部・砺波方面）では下り勾配が続くため、速度超過に注意が必要です。

トンネル開通以前は、国道360号天生峠が、幅員の狭さ、急カーブ、急勾配、そして冬期通行止めなどにより、交通の難所となっていました。飛騨トンネルの開通は、高山方面から白川郷・五箇山方面へのアクセスを大幅に改善し、観光客の利便性向上に大きく貢献しています。

トンネルは、断面積16m²の先進坑（避難坑）と130m²の本坑で構成されています。ルートは、飛騨河合PAと白川郷ICをほぼ一直線に結び、籾糠山を貫通する設計となっています。換気立坑はなく、車道下に換気坑が設けられ、長大トンネルとしては世界初の選択集中排気式縦流換気システムが採用されています。

建設工事

先進坑は飛島建設・鉄建建設JVが担当し、TBM（Tunnel Boring Machine）「天生太郎」の設計製作は三菱重工業が担当しました。籾糠山の地質は事前に十分な調査ができておらず、難工事が予想されたため、工事入り口には「臥薪嘗胆」の文字が掲げられました。

最大土被りは1,000mを超え、水圧は5.4MPa、最大湧水量は毎分70tに達するなど、青函トンネル以上の厳しい条件となりました。投入されたトンネル掘削機のうち、「天生太郎」は、残り310m地点で土圧により圧壊し停止してしまいました。その後、NATM工法による掘削が行われ、「天生太郎」の側壁部分はトンネルの一部として残されることとなりました。

本坑は大成建設・西松建設・佐藤工業JVが担当し、TBM「夢天生2000」の設計製作は三菱重工業・川崎重工業・コマツ・日立造船JVが担当しました。「夢天生2000」も軟弱地盤に苦戦しながらも掘り進みましたが、貫通後に外殻が変形し土砂が流入、埋没したため、外殻をトンネルの一部分として残されています。

本トンネルは入口間の高低差が約214mあり、白川村側から飛驒市側へ2%の上り勾配となっています。難工事のため、当初は白川村側からのみの掘削予定でしたが、飛驒市側からも掘削を開始することになりました。

当初の開通予定より3年9ヶ月遅れての開通となり、総事業費は約1,000億円に達しました。しかし、これほどまでの難工事でありながら、死亡事故ゼロを達成しています。

沿革

1993年（平成5年）11月19日：施工命令
1996年（平成8年）10月：白川村側から先進坑の掘削開始
1998年（平成10年）4月：白川村側から本坑の掘削開始
2001年（平成13年）4月：河合村（現在の飛驒市）側から先進坑・本坑の掘削（迎え掘り）を開始
2006年（平成18年）3月31日：先進避難抗貫通
2007年（平成19年）1月13日：本抗が貫通、貫通式を挙行
* 2008年（平成20年）7月5日：飛驒トンネルを含む飛驒清見IC - 白川郷IC間が開通

特記事項

工事開始時には天生トンネルという名称でしたが、安房トンネルと紛らわしいとの指摘を受け、飛驒トンネルに改名されました。トンネル掘削機の「天生太郎」と「夢天生2000」は、旧称の天生トンネルから名付けられました。

飛驒トンネルを含む飛驒清見IC - 白川郷IC間は、対距離料金が他区間に比べ1.6倍で設定されています（飛驒特別区間）。

長大トンネルのため、飛驒トンネルを含む飛驒清見IC - 白川郷IC間では危険物積載車両の通行が禁止されています。

トンネル内では、AMラジオのNHKラジオ第1放送が再送信されています。携帯電話はNTTドコモ、au、SoftBankの3G、4G(LTE)回線が使用可能です。

トンネル区間中央部付近には、ドライバーへの気分転換としてピンクと青のアクセント照明が設けられています。また、壁面には出口までの距離が1kmごとに表示されています。

景観への配慮

トンネルの施工にあたっては、世界遺産である合掌集落近辺の景観に配慮し、白川村側坑口の高さを原設計より低くされています。また、取付道路となる白川橋も集落からの景観を壊さないように橋桁をくすんだ「墨色」に塗装されています。

作業坑を合掌集落から離れた場所に設けるなど、工事用の車両・機材が合掌集落の風景に入らないような配慮も行われました。

隣のインターチェンジ

E41 東海北陸自動車道
(13) 飛驒清見IC - 飛驒河合PA - 飛驒トンネル - (14) 白川郷IC

飛騨トンネルは、難工事を乗り越え、地域交通の要として、観光地へのアクセス改善に大きく貢献しています。その建設には、最新の技術と地域への配慮が凝縮されており、日本の土木技術の粋を集めたプロジェクトと言えるでしょう。

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