飯田武郷

飯田武郷（いいだ たけさと）

飯田武郷は、文政10年（1828年）に江戸で生まれ、明治33年（1900年）に74歳で没した幕末・明治期の国学者です。東京大学教授を務めたほか、48年もの歳月をかけて『日本書紀』の注釈書である「日本書紀通釈」70巻を完成させたことで知られています。通称は彦介、後に守人、号は蓬室。

生涯

飯田武郷は、諏訪藩士・飯田武敏と、同じく諏訪藩士の飯島義道の娘・諦子の間に、江戸の芝にあった諏訪藩江戸藩邸で生まれました。幼少期には儒学を学びましたが、本居宣長の著作に感銘を受け、国学を志すようになります。しかし、宣長も平田篤胤もすでに亡くなっていたため、篤胤の実子である平田鐵胤に入門し、国学を学びました。その後、和歌を海野游翁に師事しました。

嘉永5年（1852年）、26歳の時に『日本書紀』の注釈を志し、「日本書紀通釈」の執筆を開始しました。その後、尊王攘夷運動に参加し、元治元年（1864年）の天狗党の乱では、自藩が和田峠で敗退した直後、下諏訪宿の浪士軍の宿所を訪ね、伊那谷通行を進言しました。慶応2年（1866年）には家督を長男の武夫に譲って脱藩し、京都へ上って岩倉具視のもとに身を寄せました。

慶応4年（1868年）、官軍の先鋒隊を名乗る高松隊が信濃に入ると、諏訪大社の神官や伊那谷の国学者たちとともに「神祇隊」を編成し、従軍しました。戊辰戦争では東山道軍に従軍し甲府城攻撃に向かいましたが、板垣退助の活躍により無血開城となりました。その後、攘夷を実行するために横浜攻撃に向かいましたが、明治政府の怒りを買い、免官されてしまいます。故郷に立ち寄った際、相楽総三が処刑される場に遭遇し、密かに首級を奪って葬ったとされています。これらの出来事から、明治新政府とは次第に疎遠になり、皇学所に勤務したものの、すぐに帰郷しました。

明治元年（1868年）には、京都や奈良で古典の講義を行い、翌年には諏訪藩皇学所講師に就任しました。明治5年（1873年）以降は、氣比神宮や一之宮貫前神社、諏訪大社などで宮司を務めました。

明治9年（1876年）に再び大教院に召され、後に国史編纂事業に参加しました。明治13年（1880年）からは、東京帝国大学をはじめ、慶應義塾や國學院などで古典を教えました。明治30年（1897年）に眼病を理由に教職を辞した後、「日本書紀通釈」の完成に全力を注ぎました。そして、明治32年（1899年）、執筆開始から48年目にして、遂に「日本書紀通釈」を完成させました。武郷74歳の時でした。

しかし、翌年の皇學館への講演旅行の途中、心臓病が悪化し、倒れてしまいます。そのまま牛込区内の自宅に運ばれましたが、間もなく息を引き取りました。墓所は青山霊園にあります。

死後

飯田武郷の息子である弟治と季治は、父の意志を受け継ぎ、国学研究を続けました。それぞれ『新訳日本書紀』や『神代物語』などの著作を著しました。

業績

飯田武郷の最大の業績は、長年にわたる研究の末に完成させた『日本書紀通釈』です。これは、『日本書紀』の解釈において非常に重要な役割を果たしており、その後の研究に大きな影響を与えました。また、教育者としても多くの人材を育成し、国学の発展に貢献しました。

参考資料

『長野県史 通史編 第6巻 近世3』
『郷土歴史人物事典 長野』第一法規 1978年
坂本辰之助『維新の烈士国学の泰斗 飯田武郷翁伝』

外部リンク

飯田武郷 - コトバンク
日本書紀通釈 - コトバンク
国立国会図書館デジタルコレクション (日本書紀通釈 全巻)
日本書紀通釈. 第1 - 内外書籍 昭和5年
日本書紀通釈. 第2 - 同上
日本書紀通釈. 第3 - 同上
日本書紀通釈. 第4 - 同上
日本書紀通釈. 第5 - 同上
日本書紀通釈. 索引･歌文集 - 同上
* 維新の烈士国学の泰斗飯田武郷翁伝 - 坂本辰之助著 明文社(1944年)、国立国会図書館デジタルコレクション

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