香盤

香盤：香炉、スケジュール、そして芸人の序列

「香盤（こうばん）」という言葉は、一見すると馴染みのない言葉ですが、実は複数の意味を持つ多義語です。大きく分けて、香炉、興行におけるスケジュールや出演者リスト、そして演芸における芸人の序列という3つの意味で使われています。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

1. 香炉としての香盤

まず、香盤は「常香盤」とも呼ばれる、香炉の一種です。四角い盤状の形状をしており、長時間絶えることなく香を焚くために用いられてきました。香道の道具や仏具として使われるほか、かつては一定時間香が燃焼する様子を利用して時間を計る「香時計」としても用いられていた歴史があります。

2. 興行における香盤

興行の世界では、香盤は複数の意味で用いられています。

座席表: 劇場における観客席の座席表を指し、観客の着席状況を示します。
スケジュール表: スタッフが使用する、時間単位で区切られた詳細な進行表やスケジュール表です。「香盤表」と呼ばれることもあります。映像作品製作においては、出演者、出演シーン、必要なセットや小道具などを一覧にした表として活用され、制作の効率化に役立っています。
出演者リスト: 歌舞伎、演芸、ストリップティーズなどの興行において、出演者のリストを示す場合にも「香盤」または「香盤表」が使われます。出演者の序列と登場順（番組表）が示されており、興行期間（例えば10日間など）ごとに作成されます。

3. 演芸における香盤：芸人の序列

演芸の世界、特に落語や色物などの芸人の協会において、「香盤」は芸人の序列を示す重要な概念です。香盤によって、寄席などの出演順序が決まるだけでなく、芸人同士の交友における上下関係も規定されます。例えば、上座に座る資格や下座に座る義務、誰に敬語を使うべきか、誰に指示を仰ぐべきかなどが、香盤によって明確に決められています。

それぞれの協会で独自に作成・運用されており、協会間での相互運用は行われません。入門順による先輩・後輩関係は存在しますが、それ以外の序列は各協会の独自の基準に基づきます。

例えば、江戸落語の協会では、香盤はウェブサイトなどで公開されていますが、上方[[落語協会]]では公開されておらず、決定基準も明らかになっていません。

香盤の順位は、前座、二つ目、真打といった身分階級や、会長・副会長などの協会役職歴が大きな基準となります。同じ身分内では、原則としてその身分になった順番が序列を決定します。また、協会は芸人にペナルティとして香盤順を下げる場合があります。

具体例として、落語協会の香盤順は、一般的に以下のようになります。

歴代会長（就任順、初代会長が最上位）
歴代副会長（就任順、初代副会長が最上位）
現職会長
現職副会長
役員（落語協会のみ、就任順）
真打（昇進順）
二つ目（昇進順）
* 前座（入門後、見習い期間を経て前座になった順）

このように、「香盤」は香炉から興行、そして演芸における芸人の序列まで、様々な文脈で用いられる多様な意味を持つ言葉です。それぞれの文脈における「香盤」の役割を理解することで、より深く日本の文化や芸能の世界を理解することができるでしょう。

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