馬明心

馬明心（ば めいしん、Ma Mingxin）は、18世紀の清朝時代に活躍したイスラム教の学者であり、スーフィズムの一派であるジャフリーヤ教団（哲赫林耶）の創始者として知られています。彼は1718年に甘粛省遷金で生まれ、ムスリム名イブラヒム、尊称ウィカーヤトゥッラーとも呼ばれていました。

幼少期に家族を失った馬明心は、叔父に養育され、6歳からモスクでアラビア語を学び始めました。1728年には叔父と共にメッカ巡礼へと旅立ちますが、東トルキスタンで叔父とはぐれてしまいます。しかし、彼を保護した老人の厚意によりイエメンへと送られ、ザビードでムハンマド・プル・シナに師事し、スーフィズムの教えを深く学ぶ機会を得ました。1744年、馬明心はブハラ、カシュガル、ヤルカンドを経由して故郷である河州に帰還しました。

帰国後、馬明心は循化でジャフリーヤ教団の布教に尽力します。彼の教えは、布施は貧しい人々のために使われるべきであり、アホン（イスラム教の指導者）が独占すべきではない、また、教権は世襲されるべきではないというものでした。これらの教えは、当時の社会の慣習や権威主義的な宗教観に異を唱えるものであり、貧しい民衆から熱烈な支持を得ました。しかし、その一方で、フフィーヤ教団（虎夫耶）との間に深刻な対立を生むこととなります。

1762年、フフィーヤ教団は馬明心の教えを「邪教」であると非難し、彼を告発しました。このため、馬明心は河州へと逃れることを余儀なくされました。馬明心が去った後の循化では、彼の弟子である蘇四十三がジャフリーヤ教団を指導していましたが、1781年にジャフリーヤ教団とフフィーヤ教団との間で武力衝突が発生しました。この事件をきっかけに、ジャフリーヤ教団は清朝に対して蜂起することになります。甘粛布政使の王廷賛は、馬明心を捕らえ蘭州に連行しました。蘇四十三率いる軍勢は蘭州を包囲し、馬明心の釈放を要求しましたが、1781年3月27日、王廷賛は馬明心を城壁の上で処刑しました。

その後、欽差大臣アグイ（阿桂）率いる清朝の援軍が蘭州に到着し、激戦の末、1781年6月15日、蘇四十三は戦死しました。この一連の事件は、ジャフリーヤ教団の信者たちにとって大きな悲劇となり、徹底的な弾圧を受けました。しかし、多くの人々が密かに信仰を守り続けたと言われています。

馬明心の生涯は、清朝におけるイスラム教の歴史、特にスーフィズムの発展と、異なる宗教観を持つ集団間の対立を示す重要な事例として位置づけられます。彼の教えは、社会の不平等や宗教的な権威主義に批判的な視点を提供し、後の回民蜂起にも影響を与えたと考えられています。

この記述は、白寿彝主編『回族人物志』寧夏人民出版社を参考に作成しました。また、関連事項として回民蜂起が挙げられます。

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