東トルキスタン

東トルキスタン：歴史と文化が交錯する地

東トルキスタンは、「テュルク人の土地」を意味するペルシャ語に由来し、中央アジアにおけるテュルク系民族の歴史的な領域です。主に現在の中国新疆ウイグル自治区一帯を指し、広大な面積を有しています。この地は、歴史的に様々な民族が交錯し、多様な文化が育まれてきました。

地理

東トルキスタンは、アルタイ山脈、天山山脈、クンルン山脈といった高山に囲まれ、中心部と東部は砂漠が広がっています。特にタクラマカン砂漠は広大で、その面積は約50万平方キロメートルに及びます。タリム川、イリ川など、主要な河川が流れ、サイラム湖やボグダ湖などの湖も点在しています。

歴史

古代から近代まで

この地域には、古くはインド・ヨーロッパ語族の人々が居住していました。タリム盆地には、疏勒、亀茲、焉耆、高昌、楼蘭などの都市国家が交易によって栄えましたが、遊牧国家の月氏や匈奴の影響も受けました。前漢の時代には、匈奴が衰退し前漢の支配下に入ります。その後は、突厥や唐などの勢力争いが繰り広げられ、支配者が頻繁に入れ替わる時代が続きました。

7世紀頃まで都市国家群は存続しましたが、その後徐々に衰退しました。一方、ジュンガル盆地では、テュルク系民族のウイグルが台頭し、8世紀にはウイグル可汗国が成立しました。ウイグルは唐を助け、その関係を深めますが、840年に崩壊します。その後、天山山脈北麓に天山ウイグル王国が建国され、タリム盆地にはカラ・ハン朝が興りました。カラ・ハン朝がイスラム教に改宗すると、この地域はイスラム化が進みました。カラ・ハン朝は分裂と滅亡を繰り返し、最終的にはカラ・キタイ（西遼）によって滅ぼされました。13世紀にはモンゴル帝国がこの地域を支配し、天山ウイグル王国はモンゴルに服属し、その保護を受けました。

清朝の支配とヤクブ・ベクの乱

1[[8世紀]]には、清朝がジュンガルを征服し、東トルキスタンを支配下に置きました。この地域は「回疆」または「新疆」と呼ばれるようになりました。19世紀には、コーカンド・ハン国のヤクブ・ベクが反乱を起こし、一時的に清朝から離脱しましたが、清の再征服によって再び清朝の支配下に戻りました。その後、清朝は新疆省を設置し、内地並の行政制度を導入しました。

中華民国から中華人民共和国へ

辛亥革命により清が滅亡すると、東トルキスタンは一時的に混乱しましたが、やがて中華民国に合流しました。しかし、中華民国の中央政府が軍閥の内戦状態にあったため、新疆省は事実上の独立国となりました。その後、1944年から1946年にかけて、ウイグル人主体の独立政権が試みられましたが、いずれも短命に終わりました。

1949年、国共内戦の結果、中華人民共和国が成立し、中国共産党は新疆を接収しました。イリ政府との交渉後、新疆省政府幹部も共産党政府への服属を表明し、東トルキスタンは完全に中華人民共和国に統合されました。1955年には新疆ウイグル自治区が設置されました。

中国による核実験

1964年から1996年にかけて、中国はロプノルで核実験を繰り返し行いました。これにより、放射能汚染による深刻な健康被害が発生しました。ウイグル人を中心に多数の死者や、急性放射線障害の患者が出ており、胎児への影響も指摘されています。この核実験による被害は、広島原爆の被害を上回るとも言われています。

現代の独立運動と課題

東トルキスタンでは、中国からの独立運動が続いています。ウイグル人の文化や宗教に対する抑圧、核実験による被害、移住政策による漢民族の増加など、様々な要因が独立運動の背景にあります。

東トルキスタンは、その歴史、文化、地理、そして現在抱える問題において、非常に複雑な地域です。その動向は、中央アジアの地政学的なバランスにも大きな影響を与えると考えられます。

遺跡

東トルキスタンには、歴史的に重要な遺跡が数多く残っています。楼蘭遺跡、高昌故城、ベゼクリク石窟寺院、ニヤ遺跡などは、この地の古代史を物語る貴重な遺産です。

参考文献

今谷明『中国の火薬庫　新疆ウイグル自治区の近代史』集英社、2000年
入谷萌苺『幻の「東突厥斯坦共和国」を行く』東方出版、1997年
王柯『東トルキスタン共和国研究中国のイスラムと民族問題』東京大学出版会、1995年
落合信彦『もうひとつのシルクロード中国大分裂の地雷原』小学館、1998年
テンジン、イリハム・マハムティ／ダシ・ドノロブ／林建良『中国の狙いは民族絶滅　チベット・ウイグル・モンゴル・台湾、自由への戦い』まどか出版、2009年
水谷尚子『中国を追われたウイグル人亡命者が語る政治弾圧』文藝春秋〈文春新書〉、2007年

もう一度検索

東トルキスタン