高平陵の変

高平陵の変：司馬懿のクーデターと魏の権力掌握

高平陵の変は、中国三国時代の249年に魏で発生した政変であり、司馬懿がクーデターによって曹爽一派を排除し、魏朝廷における権力をほぼ掌握した事件です。この事件は、司馬懿一族の権勢が皇帝を凌駕するほどになり、後の晋王朝成立の基礎を築くこととなりました。別名、正始政変とも呼ばれます。

前史

239年1月、明帝曹叡は病状が悪化し、次代の皇帝曹芳（当時8歳）の補佐役を選定する必要に迫られました。当初、曹叡は燕王曹宇を大将軍に任じようとしましたが、側近の劉放と孫資の反対により、曹爽と司馬懿の2人を後見人に任命しました。

曹叡の崩御後、曹芳が皇帝に即位すると、曹爽と司馬懿が政務を取り仕切ることになり、剣履上殿、入朝不趨、謁賛不名という特権が与えられました。曹爽は当初、司馬懿に友好的に接していましたが、側近の何晏らの提言により、権力独占を企てるようになります。曹爽は司馬懿を太傅（名誉職）に祭り上げ、権力を抑え込もうとしましたが、長年の功績を持つ司馬懿の軍事力は依然として無視できませんでした。そのため、曹爽が内政、司馬懿が軍事をそれぞれ管轄する形となりました。この時点では、表面上は曹爽が司馬懿を敬う姿勢を見せていたため、大きな対立は見られませんでした。

244年、曹爽は手柄を立てるため蜀漢への侵攻を計画しました。司馬懿は反対しましたが、曹爽は強行的に出兵し（興勢の役）、結果的に大敗を喫して多くの損害を出しました。この失敗以降、両者の対立が表面化することとなります。

曹爽は政治権力を独占するようになり、皇帝を軽視するようになりました。247年5月、司馬懿は身の危険を感じ、病気を理由に政務から一切手を引き、自宅に引きこもりました。曹爽と何晏は司馬懿が隠居したと聞くと、専横を強め、黄門の張当と共謀して国家転覆を企てたとされています。司馬懿は密かに事態に備えましたが、曹爽一派も司馬懿への警戒を怠りませんでした。

この頃、曹爽の側近である李勝が荊州刺史に就任し、司馬懿邸を訪れて様子を探りました。司馬懿は病が重いふりをして李勝を欺き、もう長くないと思わせることに成功しました。李勝からの報告を受けた曹爽らは、司馬懿への警戒を解き、備えを怠るようになりました。

政変

249年1月6日、曹芳は高平陵に参拝するため洛陽を出発し、曹爽とその弟の曹羲もこれに同行しました。大司農の桓範は、洛陽を空けることの危険性を説いて曹爽を諫めましたが、聞き入れられませんでした。司馬懿は一行が出発したのを確認すると、宮中に参内して郭太后に曹爽兄弟の地位剥奪を上奏し、許可を得ました。そして、司馬師と司馬孚に洛陽の宮城を制圧させ、高柔と王観の協力を得て曹爽・曹羲の邸宅をそれぞれ制圧しました。

司馬懿は曹爽の武器庫を抑えるため屋敷の前を通りかかった際、曹爽の部下である厳世に射殺されかけましたが、孫謙によって阻止されました。また、桓範は皇宮を脱出して曹爽のもとに駆けつけましたが、司馬懿は桓範の献策は受け入れられないだろうと予測し、追撃しませんでした。

洛陽を制圧した司馬懿は、曹芳を出迎えるため洛水の浮橋のほとりに駐屯しました。曹爽は変事を知ると、屯田兵を集めて伊水の南に陣を張りました。

司馬懿は曹爽らに宛てて、免官に留める旨を伝える上奏文を送りました。桓範は曹爽に許昌へ逃れて再起を図るよう進言しましたが、曹爽は決断できませんでした。曹爽は司馬懿の意図を探るため、許允と陳泰を派遣しました。司馬懿は曹爽の罪を列挙しましたが、処罰は免官までとしました。陳泰は曹爽に上奏文を取り次ぐよう勧めました。また、司馬懿は尹大目を派遣して曹爽を説得させました。曹爽は司馬懿の言葉を信用し、降伏を決意しました。桓範は曹爽の甘さを嘆き、一族滅亡を覚悟したとされています。曹爽はその後、司馬懿の上奏文を皇帝に取り次ぎ、降伏しました。

その後

司馬懿は曹爽とその一族を軟禁し、監視下に置きました。政変から4日後、曹爽の内通者である張当が反逆を計画していたことが発覚し、曹爽らは謀反の罪で処刑されました。曹爽の側近であった何晏、丁謐、鄧颺、畢軌、李勝、桓範らも誅殺されました。

曹爽の司馬であった魯芝と主簿であった楊綜は、曹爽に殉じようとしましたが、曹爽が降伏したため、処罰されることになりました。しかし、司馬懿は彼らの忠義を評価し、罪には問いませんでした。

249年2月、曹芳は司馬懿を丞相に任じ、領地を加増しました。司馬懿は丞相の位を固辞しましたが、その権力は皇帝をも凌駕するものとなりました。司馬懿は251年に死去しますが、その権力は子の司馬師、司馬昭らに引き継がれました。しかし、司馬氏一族による専横は周囲の反発を招き、後に寿春三叛などの大規模な反乱が起こることになります。

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