丁謐

丁謐（ていひつ）は、中国三国時代の魏に仕えた政治家で、字（あざな）を彦靖（げんせい）といい、豫州沛国（現在の安徽省一帯）の出身です。父は丁斐（ていひ）でした。

曹魏の第三代皇帝・曹芳（そうほう）の時代に、曹爽（そうそう）が政治の実権を握ると、丁謐はその側近として重用されました。しかし、司馬懿（しばい）が起こしたクーデター（高平陵の変）によって、曹爽一派は失脚し、丁謐もまた処刑されるという悲劇的な結末を迎えました。

生涯

若い頃の丁謐は、世間との交わりを避け、ひたすら読書に励む日々を送っていました。その性格は沈着剛毅で、優れた才略を備えていたと伝えられています。

太和年間、丁謐は鄴（ぎょう）に家を借りて住んでいましたが、事情を知らない諸王の一人がその家に勝手に引っ越してこようとしました。丁謐は寝転んだまま起き上がろうともせず、召使いに命じて追い払わせたため、諸王は激怒し、丁謐は逮捕されてしまいます。しかし、丁謐が功臣の子であったことから、罪を赦免されました。

その後、丁謐の話を聞いた曹叡（そうえい、明帝）は、父の面影があるとして彼を招聘し、度支郎中（どしろうちゅう）に任じました。丁謐と親しかった曹爽は、彼をさらに重用するよう曹叡に進言しましたが、曹叡は丁謐や何晏（かあん）らを軽薄な人物として嫌っていたため、受け入れられませんでした。

景初3年（239年）正月、曹叡が崩御し、幼い曹芳が皇帝として即位すると、曹爽が大権を掌握しました。丁謐は曹爽によって散騎常侍（さんきじょうじ）、次いで尚書（しょうしょ）に登用され、政治の中枢に関わることになります。曹爽は当初、太尉（たいい）の司馬懿と協調して政治を行っていましたが、丁謐は司馬懿を太傅（たいふ）に祭り上げ、実権を奪うように進言しました。司馬懿はこれを機に隠遁し、以降は曹爽一派が政権を掌握することになりました。

政権を握った丁謐は、しばしば他人を非難し、その多くは上手くいきませんでした。身分の高い者に対しても軽蔑的な態度を取り、同僚である何晏や鄧颺（とうよう）さえも見下していました。しかし、権勢を誇る曹爽にはへりくだり、曹爽もまた丁謐を尊敬し、彼の言葉に従っていました。丁謐は曹爽の政策に深く関与したため、司馬懿は彼を深く恨んでいたとされています。

正始10年（249年）正月、曹爽らが曹芳を伴って高平陵（こうへいりょう）に参詣に出かけた隙を突き、司馬懿がクーデターを起こし、曹爽を大逆罪で訴えました。曹爽は観念して罪に服し、丁謐らもろとも逮捕され、一族皆殺しという悲惨な最期を迎えました。

出典

陳寿撰、裴松之注『三国志』巻9 魏書 曹真伝注『魏略』

脚注

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