高柳淳之助

高柳淳之助（たかやなぎじゅんのすけ、1882年〈明治15年〉10月16日 - 1964年〈昭和39年〉11月17日）は、明治末期から昭和にかけて活躍した日本の実業家、政治家、そして著述家です。そのキャリアは多岐にわたり、革新的な事業への参画で注目された一方で、詐欺事件で逮捕・服役するなど、光と影を併せ持つ波乱の生涯を送りました。筆名として高柳曲水（きょくすい）、翠崖（すいがい）、鬼外（きがい）などを用いました。

実業家としては、「鉄道に賭けた男」や「通販史上に輝く巨星」といった異名を持つほど、その先見性や創造性には高い評価がありました。現在の企業再生ファンドのような手法で事業を立て直そうとした試みも指摘されています。しかし、投資家向けの蓄財術に関する著作などを通じて資金を集める過程で、池上電気鉄道事業に関連した詐欺・横領の容疑で逮捕されるという転機を迎えます。この事件によって、「貯金魔」「虚業家」といった批判的なレッテルを貼られることとなりました。

来歴

1882年（明治15年）、現在の茨城県行方市にあたる要村に生まれました。旧制要小学校を卒業後、茨城県立尋常中学校に進学。学業に励み、文章や和歌で頭角を現しますが、家業の事情により中途退学を余儀なくされます。17歳から24歳まで小学校の代用教員を務めた後、1905年（明治38年）に上京し、通信教育機関である国民中学会の発送係として働き始めました。

上京後、著述活動を開始します。1907年（明治40年）、25歳になる頃に初の著作『小学卒業立身案内』を上梓し、版を重ねるベストセラーとなりました。同年には自ら「育英書院」を創業し、教育関連事業にも乗り出します。

その後も精力的に執筆・出版活動を続け、1917年（大正6年）には自身の出版社「富強世界社」から『会社の内幕』を発表。日刊紙『時事新報』の記者経験を生かした内容でした。同年には「日本農工債券株式会社」を設立するなど、金融・経済分野にも活動を広げます。

郷里への貢献にも熱心で、1918年（大正7年）、36歳の時に母校である要小学校へ1万円を寄付。その利子によって高等科の授業料が免除されるように計らいました。

政治家としても活動し、1920年（大正9年）の第14回衆議院議員総選挙に茨城8区から立憲政友会の候補として出馬し、38歳で当選を果たします。

実業家としての手腕は鉄道事業でも発揮されました。1921年（大正10年）には池上電気鉄道株式会社の株式を買い占め、翌1922年（大正11年）4月に社長に就任。経営が難航していた同社の資金調達、路線変更、用地買収、車両手配といった課題解決に尽力しました。

また、1921年（大正10年）には茨城県内の鉄道敷設にも関与。行方鉄道の発起人総代として鉄道敷設許可を得て、翌1922年（大正11年）に創立総会を開き、社名を鹿島参宮鉄道株式会社（現在の関東鉄道の前身）としました。鹿島参宮鉄道の創業者・初代社長として、その創業と発展に大きく貢献したことが後の社史でも回顧されています。同時期には、高柳信託、高柳第二信託、高柳第三信託、高柳興業、日本共益、第二共益、第三共益といった多数の会社を次々と設立し、多角的な事業展開を進めました。

さらに、筑波山へのケーブルカー事業を推進するため、1923年（大正12年）には筑波山鋼索鉄道株式会社（現在の筑波観光鉄道）を設立し、社長に就任しています。1924年（大正13年）には、鹿島参宮鉄道の石岡 - 常陸小川間が開業しました。

1925年（大正14年）には、多額納税者互選によって鹿島参宮鉄道の発起人の一人と共に当選し、42歳で貴族院議員となります。しかし、選挙区での不居住を巡る選挙違反の容疑が浮上し、翌1926年（大正15年）に議員を依願辞職。同時に鹿島参宮鉄道の社長職も譲りました。同年には、設立した信託会社を合併し、高柳金融株式会社と改称しています。

同年9月、「高柳事件」として知られる詐欺・横領・公文書偽造などの容疑で自宅や事務所の家宅捜索を受け、市ヶ谷刑務所に収容されました。この事件により、池上電気鉄道の取締役を辞任（あるいは解任）され、関与していた他の要職からも退きました。

裁判の結果、高柳は詐欺罪で起訴され、1934年（昭和9年）の控訴審で懲役2年の判決を受け、翌1935年（昭和10年）に上告が棄却され刑が確定しました。これにより、受章していた勲章などを褫奪されました。

第二次世界大戦終結後の1945年（昭和20年）以降、70歳代を迎えて再び著述活動を行い、『家を富ます道』、『事業を生かす頭』といった一般向けの経済書を刊行しました。

晩年には、1960年（昭和35年）に茨城県牛久市に「孝子弥作像」を建立し、「銅像山」と名づけました。これは郷里の伝説に登場する孝行息子を称えるものでした（現在は撤去）。

1964年（昭和39年）11月17日、茨城県牛久町（現在の牛久市）にて82歳でその生涯を閉じました。

主な著書

『小学卒業立身案内』（曲水名義）、育英書院、1907年
『成功之秘訣』（翠崖名義）、学友社、1909年
『最新大秘術』（翠涯名義）、学友社、1909年
『家庭秘訣問答』（翠涯名義）、学友社、1910年
『最新美人法』（翠涯名義）、学友社、1910年
『大奇術独習』（翠涯名義）、学友社、1910年
『全国農家最大収益法』学友社、1910年
『地方必適金もうけ案内』学友社、1910年
『女の心得』（翠涯名義）、学友社、1911年
『奇術秘法全集』（翠涯名義）、学友社、1911年
『青年学生立身成功法』（翠涯名義）、学友社、1911年
『金をふやす法』学友社、1911年
『女玉手箱』（翠涯名義）、学友社、1911年
『官公吏退職者実業開始法』（鬼外名義）、富強世界社、1915年
『金銭利殖法の極意』（鬼外名義）、金山堂書店、1916年
『借金整理法』共著小西栄三郎、富強世界社、1916年
『会社の内幕』富強世界社、1916年
『株の予想』富強世界社、1915年 - 1916年
『当時の二宮先生』大東社出版部、1926年
『福々物語』大東社出版部、1926年
『銀行会社の内幕と其逆用法』大東社出版部、1927年
『骨抜記』大東社出版部、1927年
『広告で儲ける商売と其秘訣』大東社出版部、1927年
『株式相場のやり方と其秘訣』大東社出版部、1927年
『家を富ます道』東京ライフ社、1955年
『事業を生かす頭』東京ライフ社、1958年

もう一度検索