高橋泥舟

高橋泥舟（たかはし でいしゅう）

高橋泥舟は、天保6年（1835年）に旗本・山岡正業の次男として生まれました。幼名は謙三郎、後に精一と改名。諱は政晃、号を忍歳といい、泥舟は晩年の号です。槍術の名門である山岡家で育ち、兄の山岡静山から槍術を学びました。その腕前は「海内無双」「神業」と評されるほどでした。

その後、母方の高橋包承の養子となり高橋家を継ぎました。山岡家には、妹の英子の婿養子として小野鉄太郎（後の山岡鉄舟）が迎えられ、泥舟の義弟となっています。

幕末の動乱期

安政3年（1856年）に講武所槍術教授方出役、万延元年（1860年）には槍術師範役を務めました。文久2年（1862年）には一橋慶喜（徳川慶喜）に随行して上京し、文久3年（1863年）には浪士組の取締役に就任し、従五位下伊勢守に叙任されました。慶応2年（1866年）には新設の遊撃隊頭取と槍術教授頭取を兼任するなど、幕府の要職を歴任しました。

慶応4年（1868年）の鳥羽・伏見の戦いでの幕府軍敗戦後、泥舟は徳川慶喜に恭順を勧め、上野寛永寺での護衛にあたりました。江戸城開城まで慶喜を守り抜き、その後は水戸へ下る慶喜を護衛しました。徳川慶喜が西郷隆盛との交渉役として最初に選んだのは、泥舟でした。しかし、泥舟は慶喜の側を離れることができず、代わりに義弟の山岡鉄舟を推薦しました。鉄舟は見事にこの大役を果たし、江戸無血開城に大きく貢献しました。

その後

徳川家が江戸から静岡に移住するのに伴い、泥舟も地方奉行などを務め、一時田中城を預かりました。廃藩置県後は職を辞し、東京で隠棲生活を送りました。後半生は、書画骨董の鑑定などをして過ごしました。

明治36年（1903年）2月13日、牛込矢来町の自宅で亡くなりました。享年69歳。墓は東京都台東区谷中にある大雄寺にあります。

人物像

泥舟は、非常に誠実で義理堅い人物として知られています。山岡鉄舟が亡くなった際、山岡家に借金が残った時、自ら金策に奔走し、その際「この顔が担保でござる」と言った逸話は、彼の誠実さを表すものとして有名です。また、勝海舟は泥舟を「大馬鹿」と評していますが、それは彼の武道一途な性格を指しており、その実力と人柄を認めていたからこその言葉でしょう。泥舟は、兄の静山を深く慕い、静山の死に際しては、後を追って自決しようとしたほどでした。

勝海舟、山岡鉄舟とともに「幕末の三舟」と称される高橋泥舟は、幕末の動乱期を生き抜いた傑物として、その名は後世に語り継がれています。

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