高橋白山

高橋白山（たかはし はくざん）

高橋白山は、天保7年（1837年）に信濃国高遠藩で生まれ、明治37年（1904年）に没した漢学者であり、明治期の教育者です。諱は利貞、字は子和、通称は敬十郎と称しました。信州教育の開拓者として、その名は広く知られています。

生涯

高遠藩の儒学者であった高橋利常（確斎）の長男として誕生しました。幼少期から学問に励み、藩校の進徳館で中村元起に師事しました。16歳で助教、文久3年（1863年）には師範代となり、藩主の侍講も務めるなど、早くからその才能を発揮しました。在任中には、進徳館の蔵書約3万冊をほぼ読破したと伝えられています。また、江戸では藤森天山に師事し、鷲津毅堂や大沼枕山らと交流を深めました。

明治維新後、白山の思想が危険視され、長尾無墨と共に藩を追放されるという苦難を経験します。その後、手良村野口（現伊那市）で私塾を開き、医者としても地域医療に貢献しました。

明治3年（1870年）には小野村（現辰野町）に招かれ、実相庵「時習館」の初代館長に就任。その後も、洗馬村（現塩尻市）での塾主、千国街道成相新田宿（現安曇野市）の「実践社」塾頭、矢原村（現安曇野市）の「研成学校」初代校長など、各地で教育に携わりました。筑摩県権令の永山盛輝にその才能を認められ、筑摩県師範講習所の講師も兼任しました。東京師範学校への派遣後には、『上下小学授業法細記』や『小学授業必携』などの教育書を著し、教育現場に大きな影響を与えました。

県内巡察では、渡辺千秋とともに各地を回り、学校設立を推進しました。当時、文部省が実施した学校成績調査では、筑摩県が全国一位となるなど、その教育振興への貢献は非常に大きいものでした。

明治10年（1877年）には、永山の異動に伴い新潟県へ移り、新潟師範学校教授や村上小学校初代校長を歴任しました。しかし、明治12年（1879年）に父の病気を機に伊那谷へ帰郷。父の死後は、西高遠、上[[伊那郡]]松島、北佐久郡小諸の小学校長を歴任しました。明治19年（1886年）からは長野師範学校教授として論語や漢文を教え、多くの教員を育成しました。

明治32年（1899年）に退官し、東京の息子である高橋作衛のもとへ移り住みました。

白山は、普段は謹厳な人物でしたが、酒を愛し、酔うと些事にこだわらず、時勢を論じて子弟を励ましたと伝えられています。その弟子は数千人に及ぶとされ、彼らの多くが後の社会で活躍しました。詩文にも優れ、多くの著作を残しています。62歳の時には、長野市城山に頌徳碑が建立され、その功績を称えられました。

明治37年（1904年）に69歳で生涯を閉じました。辞世の句として「清風繞高枕、穏臥夢猶閑、名刻信山石、神遊天地間」を残しています。大正7年（1918年）には、その功績が認められ、従五位を追贈されました。長男の高橋作衛は、法学博士で国際法の権威となり、貴族院議員を務めました。

著作

『上下小学授業法細記』
『小学授業必携』（1875年）
『小学作文熟字鈔』（1876年）
『上等小学作文軌範』（1877年）
『白山楼詩文鈔』
『白山文集』
『白山詩集』
『清征詩史』
* 「登浅間岳記」「登白崩岳記」「登御岳記」「神代桜記」（『信濃名勝詞林』1901年）

高橋白山は、教育者として、また漢学者として、後世に大きな影響を与えた人物です。

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