高麗郡

高麗郡（こまぐん）とは

高麗郡は、かつて武蔵国（現在の埼玉県）に存在した郡です。716年に、高句麗からの渡来人が移住したことを契機に設置されました。この郡の設置は、当時の朝廷にとって外交政策上重要な意味を持っていました。高麗郡は、その歴史の中で郡域を変遷させ、1896年に廃止されるまで、様々な変遷を遂げました。

郡域

高麗郡の領域は、現在の行政区画で言うと、以下の地域に相当します。

日高市（全域）
鶴ヶ島市（全域）
川越市（入間川以西）
狭山市（入間川以西）
入間市（大字野田、仏子、新光）
飯能市（大字坂石、坂石町分、南、南川、北川、高山、坂元、上名栗、下名栗を除く全域）

これらの地域は、高麗郡が設置された当初から、その変遷の過程で編入された場所を含んでいます。

歴史

716年、朝廷は駿河など7ヶ国に居住していた高句麗からの渡来系移民1,799人を武蔵国の一部に移し、高麗郡を設置しました。初代郡司には高麗若光が任命され、彼は666年に高麗の副使として天智天皇に貢ぎ物を献上した記録が残っています。

『日本書紀』には、以下のような記録があります。

天智5年（666年）：百済人男女2千余人を東国に移住
天武13年（684年）：百済人僧尼以下23人を武蔵国へ移す
持統元年（687年）：高麗人56人を常陸国、新羅人14人を下野国へ移住、高麗の僧侶を含む22人を武蔵国へ移住

設置当初の郡域は現在の日高市と飯能市の一部であり、律令制下では小郡に分類されていました。『倭名類聚抄』には、高麗郷（現在の日高市高麗本郷付近）と上総郷（現在の飯能市北東部）の二郷の名が記されています。これらの郷名から、高麗郷には旧高句麗の遺民が、上総郷には上総国からの移民が配置されたと考えられています。

中世以降、郡域は東側の入間[[郡]]・比企[[郡]]方面に拡大し、江戸時代には現在の鶴ヶ島市全域、日高市のほぼ全域、飯能市の東半分、川越市・狭山市・入間市の一部を含む地域となりました。入間川が、入間[[郡]]との境界となっていました。

廃[[藩置県]]後、全国的な府県統合により、入間県、熊谷県を経て埼玉県に所属しました。1878年（明治11年）7月22日、郡区町村編制法の制定に伴い、行政区域としての高麗郡が誕生しましたが、郡役所は郡の中心地であった飯能町ではなく、入間[[郡]]と共同で川越町に置かれました。1896年（明治29年）3月29日、郡制の施行のため入間[[郡]]に編入され、高麗郡は消滅しました。

近代以降の沿革

明治初年の「旧高旧領取調帳」によると、高麗郡内には127の村が存在していました。慶応4年（1868年）には、岩鼻県や韮山県が設置され、幕府領や旗本領の一部を管轄しました。その後、品川県や各藩の管轄を経て、明治4年（1871年）の廃[[藩置県]]により、岩槻県、前橋県、久留里県、古河県、佐倉県の管轄となりました。同年11月には、第一次府県統合により、全域が入間県の管轄となりました。入間県は、その後熊谷県を経て埼玉県に編入されました。

1879年（明治12年）3月17日、郡区町村編制法の埼玉県での施行により、行政区画としての高麗郡が発足。1896年（明治29年）4月1日、入間[[郡]]・高麗郡および比企[[郡]]の一部の区域をもって、改めて入間[[郡]]が発足し、同日高麗郡は廃止されました。

建郡の目的

高麗郡が設置された目的は、高句麗からの移民を一つの地域に移住させ、独立した行政区とすることでした。これは、中国による渤海の冊封以降、律令国家の外交政策上重要な意味を持っていました。移住先の土地は、新天地という点で新たな郡の設置に相応しい場所でしたが、同時に2000名を超える移民の生活を確保することは、困難を伴うものでした。そのため、移民の高度な技術や能力を活用し、新たな産業を興し育成することで、彼らの自立を促す必要がありました。その結果、須恵器生産を中心とする手工業生産が選ばれ、東山道武蔵路に隣接する入間[[郡]]の若葉台遺跡群や、須恵器生産の経験を持つ比企[[郡]]の鳩山窯跡群が活用されました。この計画の中心を担ったのは、武蔵国司や入間・比企[[郡]]司であり、渡来系移民の中心的存在として背奈氏が活躍したと考えられています。

高麗郡建郡1300年記念事業

2010年5月に高麗郡建郡1300年祭準備会が発足し、2015年には一般社団法人高麗1300が設立されました。1300年の節目となる2016年には、埼玉県による記念事業が開催され、高麗若光の会が記念碑を建立しました。翌年の2017年（平成29年）には、明仁天皇、美智子皇后が、私的旅行として高麗神社を参拝しました。これは、天皇の参拝としては創建以来初めてのことでした。

行政

高麗郡には、入間・高麗郡長が置かれていました。

参考文献

「角川日本地名大辞典」編纂委員会 編『角川日本地名大辞典』 11 埼玉県、角川書店、1980年7月1日。ISBN 4040011104。
旧高旧領取調帳データベース
高麗郡建郡1300年記念事業 〜渡来から未来へ〜一般社団法人 高麗１３００
埼玉県立歴史と民俗の博物館 編『高麗郡 (Komagun) 一三〇〇年 : 物と語り : 渡来人の軌跡をたどる : 特別展』埼玉県立歴史と民俗の博物館、2016年。 NCID BB22011464。

関連項目

消滅した郡の一覧
高麗神社
高麗川
高麗駅
高麗川駅
高麗 (曖昧さ回避)
新座郡 - 古くは新羅郡と称されていた。
日朝関係史

外部リンク

高麗郡建郡1300年 - 日高市

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