髭切

髭切：源氏と深く結びついた名刀の物語

髭切は、源氏に代々伝来したとされる名刀です。その歴史は古く、軍記物語や説話などに登場し、人々の想像力を掻き立ててきました。現在、重要文化財に指定されている北野天満宮所蔵の太刀「太刀銘安綱(鬼切)」など、いくつかの日本刀が「髭切」の候補として考えられています。

複雑に絡み合う伝承

「髭切」に関する伝承は、いくつかの史料に断片的に記されており、その由来や歴史は複雑に絡み合っています。代表的なものとして『源平盛衰記』の「剣巻」があります。そこでは、源満仲が天下守護のために「髭切」と「膝丸」の二振りの刀を作らせたという説話が語られています。

「剣巻」によれば、髭切は罪人を斬った際に髭まで切断したことからその名がついたとされています。その後、源頼光、源頼義、源義家と源氏の重鎮に受け継がれ、源為義の代には「獅子ノ子」と改名されました。為義が「膝丸」を娘婿に譲った後、代刀として作られた「小烏」は、後に「髭切」の仕業と疑われ「友切」と改名されました。

平治の乱では、源義朝が「友切」を源頼朝に預けました。敗戦続きの義朝は八幡大菩薩に嘆願し、刀の名を「髭切」に戻すことで剣の力が回復したとされています。「髭切」は頼朝を助け、源平合戦での勝利に貢献しました。一方、「膝丸」も様々な変遷を経て、最終的に頼朝のもとに揃ったとされています。

しかし、『平治物語』や『鍛冶名字考』など他の史料では、異なる刀工や伝来が記されており、室町時代には諸説紛々であったことがわかります。『鍛冶名字考』や『長享銘尽』などの刀剣伝書には、頼朝から源実朝を経て北条氏に伝わったという説や、焼けて再刃されたという説など、様々な伝承が記されています。

北条貞時寄進状とその他の史料

『北条貞時寄進状』には、頼朝が「髭切」を進上し、後に安達泰盛が所持していたが、霜月騒動の後、北条貞時に渡り法華堂に奉納されたという記述があります。

『異制庭訓往来』では、「髭切」は草薙剣や小烏丸・抜丸などと共に名刀として挙げられています。「酒呑童子」の説話の一部には、渡辺綱が「鬼切」として「髭切」を用いた記述も見られます。

『田村三代記』には、『源平盛衰記』の「剣巻」に相当する部分があり、異なる伝承が記されています。

髭切と鬼切：同一視される両者の関係性

「髭切」は『太平記』で語られる「鬼切」と同一視されることが多いです。北野天満宮がそう示していることと、「鬼切」に「源氏子孫代々に伝え、天下を守るべし」という記述があるためです。

北野天満宮所蔵の「太刀銘安綱(鬼切)」は、伯耆国安綱作の太刀であり、1927年に旧国宝（重要文化財）に指定されています。この太刀の銘は当初「安綱」であったとされ、後に「国綱」に改竄された形跡があり、その理由については不明です。

髭切の伝承地と関連情報

相槌神社は「髭切」の作られた地と伝えられています。また、愛知県西尾市の御劔八幡宮には、足利義氏が北条政子から贈られた「髭切」が奉納されたと伝えられています。

「髭切」は様々な説話や伝承に登場し、浮世絵などの作品にも描かれています。その歴史は、源氏の歴史と深く結びつき、日本刀の歴史の中でも特別な存在と言えるでしょう。その真実に迫る研究は、今もなお続けられています。

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