魔界転生 (1981年の映画)

魔界転生（1981年映画）

1981年に公開された日本の時代劇アクション映画。山田風太郎の同名小説を原作とし、深作欣二が監督を務めた。主演は千葉真一と沢田研二。幕府への復讐を誓い、魔界の力で蘇った天草四郎率いる「魔界衆」と、それを阻止しようとする隻眼の剣客・柳生十兵衛の壮絶な戦いを描く。

ストーリー

寛永15年（1638年）、島原の乱は幕府軍によって鎮圧され、総大将の松平伊豆守の下、天草四郎時貞をはじめとする2万人近い信者が虐殺された。その夜、凄まじい雷鳴と共に、悪魔の力で蘇った四郎は、無念の死を遂げた者たちを次々と魔界衆として転生させ、幕府への復讐を企む。最初に仲間に加えたのは、夫・細川忠興に裏切られた細川ガラシャ夫人と、女性への煩悩を断ち切れず自害した宝蔵院胤舜だった。

将軍家剣法指南役・柳生家の嫡男、柳生十兵衛は武者修行の旅に出ていた。旧友の伊賀忍者・霧丸を訪ねた彼は、甲賀衆による伊賀の里の壊滅を知る。そこで瀕死だった霧丸は、四郎の手で魔界衆と化していた。さらに、十兵衛が教えを請うため肥後へ向かった宮本武蔵も、既に魔界衆の一員となっていた。魔界衆の襲撃を受けた十兵衛は、死んだはずの彼らが蘇った事実を知り、江戸へ向かう四郎を追って父・柳生但馬守宗矩に急報する。

江戸では、四代将軍家綱がガラシャに籠絡され、政務を放棄。危機感を抱いた但馬守は、十兵衛からの知らせもあり、ガラシャの正体を疑う。魔物を斬る刀を刀匠・村正に依頼するが、自身は病に侵されていた。次男・左門に後事を託し江戸城へ向かうが、入れ違いに柳生家を訪れた武蔵に左門は殺害される。城に到着した但馬守は胤舜を倒すも、病に倒れたところに現れた四郎に転生を迫られる。帰宅した十兵衛は弟の死を知り、父の変貌ぶりから彼もまた魔界衆となったことを悟り、屋敷を脱出する。

十兵衛も村正に作刀を依頼するが、父の依頼で精根尽きていると断られる。そこへ武蔵が現れるが、村正の養女おつう（武蔵の恋人お通の姪）の笛の音に戦意を失い退散。おつうを見た村正は命を賭して刀を打ち、十兵衛に託して世を去る。

一方、四郎は凶作や年貢の取り立てで農民を煽動し、一揆を起こさせて江戸へ向かわせる。霧丸は一揆に参加した少女・お光と心を通わせ、魔界衆であることに苦悩する。十兵衛に人の心が残っていることを見抜かれ見逃されるが、お光と共に逃亡を図る最中、四郎に粛清される。

十兵衛は再び武蔵と対峙。おつうの笛も効かぬほど魔と化した武蔵を、村正で打ち破る。

江戸城では、家綱とガラシャの諍いから火事が起こり、明暦の大火へと発展。正体を現したガラシャは家綱を人質に暴れ、そこに四郎と魔界衆となった但馬守が現れる。炎上する城でガラシャは家綱と心中、四郎は狂喜して姿を消す。

江戸城に駆けつけた十兵衛は、待ち受ける父・但馬守との決闘に臨む。親子の情愛と剣客としての宿命が交錯する激戦の末、十兵衛は苦悩しながらも父を倒す。勝利に涙する十兵衛の前に現れた四郎は、永遠の命を与えると誘うが拒絶される。激しい戦いの末、十兵衛は四郎の首を刎ねる。しかし四郎は倒れず、首を抱えて哄笑しながら炎の中に消え去り、復活を予告する。十兵衛は燃え盛る城の中で、独り立ち尽くすのだった。

製作

『柳生一族の陰謀』以降、不振にあえぐ東映京都撮影所を救うべく、角川春樹が山田風太郎原作の大作時代劇を企画。当初、五社英雄が監督に内定していたが、逮捕により降板。角川は『復活の日』に続き深作欣二を起用した。原作選定を巡る角川と深作の勘違いが笑い話となった後、正式に映画化が決定した。

キャスティングでは、千葉真一が4度目となる柳生十兵衛役を演じ、決定版とするべく役作りに励んだ。プロデューサーの佐藤雅夫は、角川の意向を受け、千葉真一、若山富三郎（柳生但馬守）、緒形拳（宮本武蔵）、沢田研二（天草四郎）といった豪華キャストを集めた。原作では別人物だった森宗意軒と四郎をまとめ、沢田を魔界衆の首領とする脚色は山田自身も感心したという。魔界衆に女性キャラクターのインパクトを加えるため、原作にない細川ガラシャ夫人が追加された。

脚本は、原作の膨大な内容を2時間強の尺に収めるため、多くの登場人物を削り、柳生十兵衛と魔界衆剣士たちとの連続する決闘に焦点を当てた。深作監督は時代劇演出への意欲を燃やし、アクションの見せ場を追求。殺陣師の菅原俊夫と共に、武蔵の武器を櫂にするなど独創的なアイデアを取り入れた。

撮影開始後は怪我や病気が相次ぎ、お祓いが行われるほどの事態に見舞われた。クライマックスの江戸城炎上シーンは、セットを実際に燃やすという破格のスケールで撮影された。通常の撮影では安全を考慮して行われない手法だが、深作監督は最高の迫力を求め決断。俳優やスタッフは文字通り命がけで三日三晩の撮影に臨み、このシーンは日本映画史に残る名場面となった。千葉真一や若山富三郎は水浸しの重い衣装で、沢田研二は火傷を負いながら熱演。炎の中で佇む十兵衛の姿など、過酷な状況下での俳優陣の集中力が光る。柳生十兵衛の野性味あふれる扮装と、天草四郎の異様で華麗な扮装の対比も印象的だった。

公開と反響

本作は「666のオーメン」と称して、当初の予定より1週間早い6月6日に公開された。従来の東映時代劇とは異なり、女性客を多く獲得し、公開初日から長蛇の列ができるほどの記録的な大ヒットとなった。台湾でも上映され、当時の同国映画興行記録を更新する成功を収めた。その人気から、1983年にはテレビでの初放送も行われた。

後世への影響

その衝撃的な世界観と映像表現は、国内外の様々な分野に影響を与えた。クエンティン・タランティーノやサミュエル・L・ジャクソンの作品、秋山幸二や眞栄田郷敦といった著名人が千葉真一演じる柳生十兵衛について言及し、その根強い人気を示している。時代劇専門チャンネルや評論家の春日太一も、千葉真一と若山富三郎の殺陣、特に柳生親子の師弟対決を時代劇史に残る名勝負として高く評価している。また、沢田研二演じる天草四郎のカリスマ性は絶大で、「ジュリーの魔界転生」と呼ばれるほど。彼が劇中で唱えた「エロイム・エッサイム」は流行語となり、三谷幸喜や中田譲治といったクリエイターの演技指示やキャラクター造形にも影響を与えた。漫画やゲームといったサブカルチャーにも多大な影響を及ぼしており、平野耕太（『ドリフターズ』）、青山剛昌（『YAIBA』、『ライブ・ア・ライブ』）、和月伸宏（『るろうに剣心』）、ゲーム『サムライスピリッツ』、『装甲悪鬼村正』、『真・女神転生IV』など、多くの作品で本作の要素やキャラクターデザインが踏襲、あるいはオマージュされている。特に、映画のラストシーンで首を抱えて哄笑する天草四郎のヴィジュアルは、多くのフォロワー作品で再現された。

翻案作品

本作の成功を受け、1981年には新宿コマ劇場で舞台化。天草四郎を志穂美悦子が演じるなど新たな設定が加えられた。また、2003年には窪塚洋介と佐藤浩市主演で再映画化されている。

サウンドトラック

映画のオリジナル・サウンドトラックは、長らく商品化されていなかったが、2020年に未使用のイメージ曲を含め発売された。

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