鷹司信熙

鷹司信熙：華族出身の軍人、激動の時代を生きる

鷹司信熙(たかつかさ のぶひろ、1892年～1981年)は、明治から昭和にかけて生きた陸軍軍人であり、旧華族の出身です。最終階級は陸軍大佐に上り詰め、男爵位を継承した名家出身者でした。その生涯は、激動の時代を反映した波乱に富んだものでした。

信熙は、公爵・鷹司煕通の次男として東京で誕生しました。1905年、分家して男爵位を継承します。陸軍中央幼年学校を経て、1912年に陸軍士官学校を卒業。砲兵少尉に任官し、近衛野砲兵連隊に配属されました。その後、陸軍砲工学校高等科を卒業し、着実にキャリアを積んでいきます。

1921年には近衛野砲兵連隊の中隊長に就任し、陸軍士官学校の教官も務めました。昭和初期には、砲兵少佐に昇進。近衛野砲兵連隊の大隊長、砲工学校の教官などを歴任し、軍内部での地位を確固たるものにしていきました。1933年には皇族付武官として北白川宮永久王に仕えるなど、重要な任務にも携わっています。

信熙の経歴における転機は、1937年の野戦重砲兵第7連隊長への就任です。そして、1939年には砲兵大佐に昇進し、ノモンハン事件に出動しました。しかし、この事件を巡る責任を問われ、同年9月30日、停職と男爵の礼遇停止という厳しい処分を受けます。同年12月には、諭旨により予備役編入となりました。

太平洋戦争末期の1944年、信熙は召集を受け、名古屋陸軍造兵廠の監督官として再び軍務に就きます。終戦後は、公職追放となりますが、1951年に追放が解除されました。

信熙の出自は、日本の歴史において重要な役割を担った名家・鷹司家でした。祖父は九条尚忠（従一位関白）、伯母には英照皇太后がいます。兄の信輔は皇太子傅育官を務め、貴族院議員、明治神宮宮司を歴任した人物です。このように、信熙の家族もまた、日本の歴史に名を刻んだ人物ばかりでした。信熙自身の妻は三井高棟の娘であり、その子息たちは、それぞれ異なる道を歩んでいます。長男は夭折しましたが、次男は陸軍大尉を務め、三男は豊田通商の監査役となりました。さらに、信熙には複数の娘たちがおり、それぞれ名家に嫁いでいます。

鷹司信熙の生涯は、華族出身の軍人として、激動の時代を生き抜いた一人の物語です。彼の経歴は、単なる軍人としての成功だけでなく、名家出身者としての立場、そして時代の流れの中で翻弄される個人の姿を浮き彫りにしています。彼の経験は、昭和という激動の時代を理解する上で貴重な資料となります。

参考文献

佐藤朝泰 著 『門閥 旧華族階層の復権』、立風書房、1987年
秦郁彦 編 『日本陸海軍総合事典』第2版、東京大学出版会、2005年

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