鹿沼藩

鹿沼藩

鹿沼藩は、江戸時代前期から中期にかけて下野国都賀郡鹿沼（現在の栃木県鹿沼市周辺）に存在した藩です。徳川家光の側近であった朽木稙綱が立藩し、その後、内田氏が3代約75年にわたり藩主を務めました。内田氏が去った1724年をもって廃藩となりました。

立藩をめぐる複数の解釈

鹿沼藩の立藩時期については、複数の解釈が存在します。朽木氏以前に阿部氏が鹿沼を領していたという説があり、阿部氏の領有についても「鹿沼藩」として扱われることがあります。

歴史

前史

戦国時代、鹿沼の地には壬生氏が進出し、壬生義雄が壬生城から鹿沼城に本拠を移しました。小田原合戦の際、壬生氏は北条氏に属したため、天正18年（1590年）に豊臣秀吉によって領地を没収され、結城秀康に与えられました。結城氏が越前に移った後、鹿沼領は幕府領となりました。

阿部家と鹿沼

阿部正次の「鹿沼藩」

慶長15年（1610年）、武蔵国鳩ヶ谷などで1万石を領していた阿部正次は、鹿沼領で5000石を加増されました。正次は鹿沼陣屋（押原西町陣屋）を築き、飛び地領支配のための陣屋とも、居所を鹿沼に移したとも見なされ、鹿沼藩の立藩とする見方があります。元和2年（1616年）、正次は大坂の陣での功績により都賀郡内で7000石を加増され、合計2万2000石となりました。元和3年（1617年）、正次は8000石を加増の上で上総国大多喜藩に移り、下野国の領地は収公されました。

阿部重次の「鹿沼藩」

正次の子である阿部重次は、部屋住みの身でありながら徳川家光に仕え、側近「六人衆」（後の若年寄）の一人に数えられていました。寛永12年（1635年）、阿部重次は鹿沼領で1万石の加増を受け、従前の近江国浅井郡内3000石と合わせて1万3000石の大名となりました。『角川日本地名大辞典』は、これを鹿沼藩の立藩としています。寛永15年（1638年）、武蔵国岩槻藩8万6000石の藩主で大坂城代を務めていた阿部正次は、摂津国の領地3万石を残し、関東に所在する領地を子の重次と孫の正令（政澄の子）に分与しました。この際、重次は関東の封地のうち4万6000石を分与され、岩槻を居城としました。重次は従前の自身の所領である鹿沼領など1万3000石もそのまま知行しており、合計5万9000石を領する岩槻藩主になったとみなされています。『角川日本地名大辞典』は、これにより鹿沼藩が廃藩されたとしています。鹿沼領の一部は、天和元年（1681年）まで岩槻藩阿部家領の飛び地でした。

朽木稙綱の時代

朽木稙綱は、近江国高島郡朽木谷の旧族・朽木氏の一族で、徳川家光の側近となり、寛永12年（1635年）に六人衆（若年寄）に任命されました。朽木稙綱は鹿沼領の領主となり、鹿沼藩を立藩しますが、どの時点をもって「立藩」と見るかについては諸説あります。寛永13年（1636年）、加増を受けて1万石の大名となりましたが、知行地の分布ははっきりしません。『鹿沼市史』によれば、この際に鹿沼も領地となり、「鹿沼藩」の立藩とする見解もあります。その後、寛永16年（1639年）に1万石を加増され、合計2万石となりました。正保4年（1647年）、下野国鹿沼において5000石が加増され、『日本史広辞典』や『角川日本地名大辞典』では、この時点で鹿沼藩が立藩したとしています。慶安元年（1648年）には初めて領地入りの暇を与えられ、同年4月には家光が日光を参詣した際に同行し、帰路で鹿沼を通行しています。慶安2年（1649年）2月、5000石を加増の上で常陸国土浦藩に移されました。

内田家の時代

慶安2年（1649年）8月、内田正信が鹿沼に封じられました。正信も家光の近臣で、相模国・下総国・常陸国などで1万石を領していましたが、下野国都賀・安蘇郡内で5000石を加増され、合計1万5000石を知行することになり、鹿沼を居所と定めました。慶安4年（1651年）、徳川家光の死去を受け、正信は殉死しました。正信の跡は内田正衆が7歳で継ぎました。寛文3年（1663年）、4代将軍徳川家綱の日光東照宮参社に際し、陣屋の敷地に将軍の道中接待のための御成御殿を造営しました。元禄12年（1699年）、正衆が死去し、子の内田正偏が跡を継ぎましたが、相続の際に2人の叔父に分知を行ったため、鹿沼藩は1万3000石となりました。享保9年（1724年）、正偏は「狂気」により妻女を傷つけた罪を咎められて蟄居処分となり、長男の内田正親が家督を継ぐことが認められましたが、3000石を減封され、所領は下総国香取郡・下野国都賀郡内で1万石となりました。この際に鹿沼も収公されたため、内田正親は下総国小見川を居所とし、内田家は下総国小見川藩1万石に移封されたと見なされ、鹿沼藩は廃藩となりました。

歴代藩主

朽木家
譜代。2万5000石。
稙綱
内田家
譜代。1万5000石。
正信
正衆
正偏
* 正親

領地

鹿沼の町は壬生通り（日光街道壬生通）の宿場町であり、郷村としては「押原村」と呼ばれていましたが、宿場町として発達すると「鹿沼町」「鹿沼宿」とも呼ばれるようになりました。慶長15年（1610年）、阿部正次が鹿沼領5000石を知行した際に、押原村（鹿沼宿）に鹿沼陣屋（押原西町陣屋）が築かれました。寛永12年（1635年）に阿部重次が鹿沼領内で1万石を加増されましたが、押原村（鹿沼宿）はすべてが阿部重次の知行となったわけではなく、幕府領との相給であり、重次は新たに押原東町陣屋を置きました。寛永13年（1636年）、朽木稙綱が鹿沼領で加増され、押原村（鹿沼宿）は阿部重次と朽木稙綱の相給となり、朽木家（鹿沼藩）は正次が築いた鹿沼陣屋（押原西町陣屋）を拠点としました.

もう一度検索