越天楽

『越天楽』（えてんらく）の詳細

『越天楽』は、日本の伝統音楽である雅楽の曲目の一つで、特に有名な作品です。別名『越殿楽』とも呼ばれ、雅楽の中でも際立った位置を占めています。この曲は、かつて存在していた舞に伴うものとして伝わってきましたが、現在はその舞は廃絶し、楽曲のみが残されています。

演奏形式と楽器

通常、越天楽は平調（ひょうじょう）という旋律で演奏されますが、場合によっては盤渉調（ばんしきちょう）や黄鐘調（おうしきちょう）でも供されることがあります。歴史的に見れば、壱越調・双調・上無調・下無調という渡物も存在しましたが、これらは現在では演奏されなくなりました。演奏に用いる楽器は、正式には龍笛、篳篥、笙、箏、琵琶、鞨鼓、鉦鼓、楽太鼓の8種類があり、これらが合奏の中で一体となります。

越天楽は早四拍子の小曲で、楽曲の形式はAABBという構造になっています。この構成において、各アルファベットは8小拍子を指しており、さらに「重頭」としてCCが加わる場合もあります。例えば、二回繰り返す場合の演奏パターンはAABBCCAABBとなります。雅楽の楽譜では、「(A)二返、(B)二返、重頭(C)二返」というように表記されます。

歴史的背景

『越天楽』は古くは唐楽の曲として知られており、かつては「林越天」、「林鐘州」といった曲名でも呼ばれていました。また、『楽家録』では盤渉調の曲として位置づけられています。さらに、中国の前漢時代の皇帝文帝や、高祖劉邦の軍師張良が作曲したとする伝説も存在しますが、実際にはその由来は不明です。最近の研究では、日本で制作された曲とする見解もあります。

歴史的に、この曲は千年を超える期間、さまざまな場面で演奏されてきました。953年には、宮中で公卿たちが退出する際に「越殿楽」が奏された記録も残っています。また、法会の場面でも盤渉調の曲として用いられたことがあり、その多様性は高い評価を受けています。

歌詞と変遷

平調の越天楽には、歌詞をつけて唄う『越天楽今様』（えてんらくいまよう）というバリエーションも存在しています。その内容の一例として、「春の弥生の曙に　四方の山辺を見渡せば　花盛りかも白雲の　かからぬ峰こそ無かりけれ」といった歌詞があります。さらに、この越天楽の旋律を変化させた『黒田節』も、元々は「春の弥生の曙に」という歌詞で唄われていたことが示されています。

また、筑紫箏の演奏家は越天楽の旋律を基に『富貴』（ふき）という曲を作るなど、様々な形で楽曲が受け継がれています。近年、アメリカやヨーロッパでも演奏された実績があり、海外にも影響を及ぼす存在となっています。

現代的なアプローチ

『越天楽』をもとにした様々な作品も創作されています。例えば、宮城道雄や近衛直麿、近衛秀麿による箏曲と管弦楽の編曲版である『越天楽変奏曲』（1928年）は、多くの演奏家によって親しまれています。レオポルド・ストコフスキーもこの曲を取り上げたことで有名です。

さらに、松平頼則が作曲した『盤渉調越天楽の主題によるピアノと管弦楽のための主題と変奏』（1951年）は、平調とは異なるメロディを基にした作品で、多様な音楽技法を試みています。また、ヘルベルト・フォン・カラヤンやイヴォンヌ・ロリオの演奏によって、国際的にも評価されています。

伊福部昭の作品『交響舞楽「越天楽」』もあり、こちらはオーケストラによるバレエ音楽として新しい解釈で制作されています。これらの多様性を通じて、『越天楽』は日本のみならず世界の音楽シーンに影響を与え続けています。

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