12のインヴェンション

間宮芳生作曲の合唱曲集「12のインヴェンション」は、混声合唱、男声合唱、女声合唱が混在するユニークな構成を持っています。この曲集は、単なる民謡の編曲ではなく、間宮が長年にわたり研究してきた日本の民謡を、作曲家の視点から再解釈し、新たな音楽作品として創造したものです。

制作の背景

1954年頃から、間宮芳生はアルト歌手で民族音楽研究家の内田るり子と共に、日本民謡の調査を開始しました。この調査は、町田佳声が中心となって編纂した『日本民謡大観』の一部を構成するものでしたが、間宮と内田の研究成果は、独唱とピアノのための『日本民謡集』や『合唱のためのコンポジション』など、数々の作品に結実しました。

その中でも特に重要な位置を占めるのが、1967年から1969年にかけて作曲された「12のインヴェンション」です。この曲集では、東北から九州にかけて採集された様々な民謡が素材として用いられています。「インヴェンション」というタイトルは、民謡の旋律を多声の豊かな響きを持つ合唱曲として「発明」するという意味が込められています。

間宮の作品の特徴は、単に民謡を五線譜に書き起こして、歌いやすく編曲するだけではない点にあります。彼は、民謡や民族芸能の音楽を、作曲家の耳で注意深く聴き直し、再構成することによって、時代とともに失われつつある、純粋で力強い音楽の魅力を引き出すことを目指しました。間宮自身は、この手法を「私流の民謡の伝承」と述べています。

発表以来、この曲集は多くの合唱団によって歌い継がれており、2018年7月現在で36刷を重ねています。

演奏上の特徴

日本の民謡というと、こぶしを効かせた歌い方を想像しがちですが、間宮は「祭りの歌や仕事唄などには、こぶしやヴィブラートを使わず、まっすぐ伸びやかに歌うものが多い」と指摘しています。そのため、「12のインヴェンション」を演奏する際には、作曲者自身の意向として、素朴でまっすぐな歌い方が求められます。

曲目解説

全12曲はすべて無伴奏で、以下のような構成になっています。

1. 稗搗唄（混声四部）：宮崎県民謡をベースにした、力強い曲。原曲の持つ素朴なエネルギーを表現しています。
2. 知覧節（混声四部）：鹿児島県知覧町の民謡で、美しい旋律が特徴の抒情的な作品です。
3. 米搗まだら（混声四部）：長崎県諫早市の民謡を素材にした、テンポの速い、リズミカルな作品です。
4. 米搗唄（男声二部）：岩手県亀ヶ森村の民謡を基にした、抒情的な美しい男声合唱です。間宮が民謡に関心を持つきっかけとなった重要な曲です。
5. おぼこ祝い唄（混声四部）：青森県八戸市の出産祝いの歌で、素朴ながらも味わい深い作品です。
6. 獅子舞（混声四部）：山梨県の獅子舞の芸能を素材にした、笛の旋律が印象的な合唱曲です。
7. のよさ（混声四部）：長野県の盆踊りの歌で、リズミカルで楽しい雰囲気を持つ作品です。
8. まいまい（混声四部）：富山県の神楽舞の歌で、古雅で美しい旋律が特徴。ヨーロッパ初期ルネサンス音楽との共鳴を意識して作曲されています。
9. 田の草取り唄（女声三部）：秋田県の民謡をベースにした、芸術的な美しさを感じさせる女声合唱です。
10. 田植唄（男声三部）：秋田県の民謡で、二群に分かれた掛け合いが特徴的な労働歌。対等な役割を持つ2つのグループのバランスが重要になります。
11. 天満の市は（混声四部）：大阪の子守唄で、原曲の雰囲気を比較的そのまま残した作品です。
12. でいらほん（混声四部）：伊豆青ヶ島に伝わる死者の蘇生を祈る歌を基にした、劇的な構成を持つ作品です。

楽譜

「12のインヴェンション」の楽譜は、全音楽譜出版社から出版されています。

参考文献

「選択曲へのアプローチ」『ハーモニー』No.72（全日本合唱連盟、1990年）
「名曲シリーズへのアプローチ」『ハーモニー』No.140（全日本合唱連盟、2007年）
* 「名曲シリーズへのアプローチ」『ハーモニー』No.172（全日本合唱連盟、2015年）

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