14-3-3タンパク質

14-3-3タンパク質は、すべての真核生物に広く保存されている、細胞内の重要な調節因子ファミリーです。細胞のシグナル伝達ネットワークにおいて中心的な役割を担い、実に200種以上の機能的に多様なタンパク質（キナーゼ、ホスファターゼ、膜貫通受容体など）と相互作用することが知られています。

分子の性質

これらのタンパク質は種によってコードする遺伝子の数が異なり、例えば哺乳類では通常7種類、モデル植物であるシロイヌナズナでは13から15種類、酵母では2種類が存在します。構造的にはテトラトリコペプチドリピート（TPR）スーパーファミリーに類似しており、一般的に9本または10本のαヘリックスから構成されています。特徴として、これらのヘリックス、特にN末端側の相互作用を介して、ホモ二量体またはヘテロ二量体を形成して機能することが多い点が挙げられます。また、リン酸化、アセチル化、限定的なタンパク質分解による切断といった多様な翻訳後修飾を受けたり、二価カチオンと相互作用したりする領域が同定されており、これらの修飾が機能調節に重要な役割を果たしています。

14-3-3タンパク質は、その特徴的な両親媒性の溝構造を利用して、特定のペプチド配列を認識し結合します。最も一般的な結合モチーフはリン酸化されたセリンまたはスレオニン残基を含みますが、リン酸化されていないリガンドも報告されており、その結合特異性は多岐にわたります。

発見と命名

14-3-3タンパク質は、1967年にウシの脳組織から初めて単離・同定されました。その後の生化学的分析（クロマトグラフィーと電気泳動）において、DEAEセルロースカラムの溶出分画で14番目に現れ、デンプンゲル電気泳動での移動度が3.3番目に位置したことから「14-3-3」と名付けられました。

細胞機能における役割

14-3-3タンパク質は、細胞内で非常に多岐にわたる機能に関与しています。例えば、免疫系においては、B細胞における抗体遺伝子のクラススイッチ組換えにおいて、特定のアイソフォームが役割を果たすことが示唆されており、活性化誘導シチジンデアミナーゼ（AID）との相互作用が考えられています。また、細胞周期の制御においても重要な役割を担います。G2/M期への移行を促進するCDC25Cという脱リン酸化酵素は、DNA損傷チェックポイントなどでCHEK1やCHEK2といったキナーゼによってリン酸化されます。このリン酸化されたセリン残基を含む部位に14-3-3タンパク質が結合することで、CDC25Cが核から細胞質へと隔離されます。これにより、核に存在するサイクリンB-CDK1複合体へのアクセスを防ぎ、細胞周期の進行を抑制するメカニズムに関わっています。その他にも、標的タンパク質の細胞内局在、活性、安定性などの調節を通じて、多様なシグナル経路に関与しています。

種による違いと特定アイソフォーム

ヒトでは以下の7種類の主要なアイソフォームが存在します。

YWHAB (14-3-3β)
YWHAE (14-3-3ε)
YWHAG (14-3-3γ)
YWHAH (14-3-3η)
YWHAQ (14-3-3θ)
YWHAZ (14-3-3ζ)
* SFN or YWHAS (14-3-3σ, Stratifin)

かつて独立したアイソフォームと考えられていたYWHAA (14-3-3α) と YWHAD (14-3-3δ) は、現在ではそれぞれYWHAB (β) と YWHAZ (ζ) の特定のリン酸化形態であると報告されています。

植物においては、非常に大きな遺伝子ファミリーを形成しており、細胞膜上のP型ATPアーゼの活性化など、植物の成長や応答において不可欠な役割を担っています。これは、ATPアーゼのC末端にある保存された特定のリン酸化スレオニン残基に14-3-3が結合することによって実現されます。また、特定の疾患との関連も研究されており、例えばYWHAH (η) アイソフォームは関節リウマチ患者の滑液中のバイオマーカー候補として報告されています。

疾患との関連

臨床的な関連としては、脳脊髄液中の14-3-3タンパク質レベルの上昇は、プリオン病であるクロイツフェルト・ヤコブ病の診断における徴候の一つとして知られています。これは、神経細胞の急速な破壊に伴って細胞内の14-3-3タンパク質が脳脊髄液中に漏出するためと考えられており、他の神経変性疾患や脳障害でも上昇が見られることがありますが、クロイツフェルト・ヤコブ病の診断において重要な指標の一つとされています。

14-3-3タンパク質は、その多様な相互作用と機能により、細胞の生存、増殖、分化、アポトーシスなど、広範な生命現象の制御に不可欠な役割を果たしています。現在もその詳細なメカニズムや疾患との関連性についての研究が進められています。

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