1908年の日本公開映画

1908年（明治41年）は、日本の映画界にとって記念碑的な一年として歴史に刻まれています。この期間に日本国内で商業公開された映画は、その後の日本の映画産業の礎を築く重要な要素となりました。

この年、まず特筆されるのは、映画専門館、当時の言葉で「映画常設館」と呼ばれる劇場の建設が全国的に相次いだことです。既に東京の浅草公園六区にあった電気館や神田の錦輝館、前年に開館した神田の新声館や浅草の三友館、大阪の千日前電気館などに加え、新たな映画館が続々と誕生しました。具体的には、1月に大阪・道頓堀の浪花座、4月には名古屋の広小路電気館、大須電気館、大須文明館、大須世界館、東京・浅草の福寿館、5月に横浜の喜音満館、東京・牛込の牛込文明館、7月には浅草の大勝館、富士館、京都の新京極南電気館、9月には大阪・千日前の第二電気館などが開館し、多くの人々が映画を鑑賞できる環境が急速に整備されていきました。

そして、この年は日本国内での映画製作が大きく進展した年でもありました。同年1月、吉沢商店が東京・目黒に日本で初めてとなる本格的な撮影所を建設・開所しました。これにより、現代劇を中心とした劇映画の製作が本格的に始まります。撮影所開設後、最初に製作された映画は非劇映画の『神刀流剣舞術菅公』（5月1日公開）ですが、この撮影所で最初に作られた劇映画は、俳優の川上音二郎が出演した喜劇『和洋折衷結婚式』（10月17日公開）です。

一方、吉沢商店と並ぶ配給会社であった横田商会も、この年に重要な日本映画を製作・公開しました。横田商会製作の喜劇映画『いもりの黒焼』（6月25日公開）は、日本で最初に作られた劇映画の一つとされています。当時の横田商会はまだ専用の撮影所を持っておらず、寺社の境内などを借りて撮影に臨んでいました。また、日本の時代劇映画の最初期を飾る作品とされるのが、牧野省三監督による『本能寺合戦』（9月17日公開）です。これも横田商会によって製作されました。

さらに、日本の劇映画として初めて屋外でのロケーション撮影が行われたとされるのが、吉沢商店製作の『己が罪』（11月11日公開）です。この作品では、神奈川県の片瀬海岸や江ノ島などでの撮影が実施されました。

この時期には、十一世片岡仁左衛門主演の『忠臣蔵五段目』のような、演劇の舞台などを記録するような形式の活動写真も製作・公開されています。これらは撮影所ではなく舞台などを撮影したもので、厳密には現在の劇映画とは性格が異なる、演劇の記録に近い作品でした。

海外から輸入される映画も増加しました。横田商会やM・パテー商会は横浜の商社などを通じて、吉沢商店は現地の出張員が直接買い付けるなどして、様々な国の作品が日本へもたらされました。この年に公開された著名な輸入映画としては、ジョルジュ・メリエス監督による1902年のフランス映画『月世界旅行』が、『月世界探検』のタイトルで4月15日に横田商会の配給によって公開されています。輸入された作品は、フランスのパテーやゴーモン、ドイツのメステル、イタリアのチネスやアンブロジオ、デンマークのノルジスク・フィルム、ロシアのハンジョンコフ商会など多岐にわたりましたが、アメリカ合衆国の映画はまだ少数派でした。

このように1908年は、全国的な映画館網の拡充と、日本初の撮影所誕生に始まる本格的な国内映画製作の黎明期が重なった年でした。様々な「日本初」が生まれ、後の日本映画産業の発展に向けた確固たる基盤が形成された、まさに画期的な一年であったと言えるでしょう。

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