1921年の航空

1921年は、航空技術、運用、制度、そして人々の挑戦という、多岐にわたる側面において重要な進展が見られた年でした。

軍事航空の分野では、各国で航空機の役割に対する理解が深まりました。日本では、この年、日本海軍において新型のグロスター スパローホーク艦上戦闘機の運用が開始され、航空戦力の近代化が進められました。また、日本海軍航空隊にとって重要な拠点となる霞ヶ浦飛行場が完成し、航空技術教育や訓練の基盤が整備されました。さらに、日本の航空技術指導のため、イギリスからセンピル教育団が招へいされ、その後の日本の航空発展に大きな影響を与えました。アメリカでは、ウィリアム・ミッチェル准将の提唱により、航空機による艦船への攻撃実験が行われました。この実験では、旧ドイツ軍の戦艦オストフリースラントが爆撃によって撃沈され、航空機の対艦攻撃能力が実証され、海軍戦略における航空戦力の重要性が改めて認識されることとなりました。理論面では、イタリアの軍人ジュリオ・ドゥーエが、空軍力の優位性が戦争の勝敗を決定するという画期的な航空戦略論を論じた著作『制空』を発表し、世界の軍事関係者に大きな影響を与えました。

民間航空も着実に発展を遂げました。メキシコでは、後に大手航空会社となるメキシカーナ航空がこの年に設立され、商用航空の基盤が築かれました。日本では、民間航空の健全な発展を目指して航空取締り規則が発布され、航空活動に対する一定の規制が始まりました。また、パイロットの育成と資格認定制度も整備され、航空免状の発行が開始されました。その第1号となる三等飛行機操縦士免状は藤縄英一氏に授与され、日本の航空史における重要な一歩となりました。

技術的な挑戦とそれに伴う課題も浮き彫りになりました。イタリアで計画されていた、100名の乗客を乗せて大西洋横断を目指す巨大な飛行艇、カプロニCa60は、マッジョーレ湖での試験飛行中に高度約18メートルまで上昇したものの、構造上の問題から墜落炎上し、その壮大な計画は頓挫しました。飛行船の分野でも、イギリスの硬式飛行船R38が、構造上の欠陥が原因で空中で破壊され、ハンバー川に墜落するという痛ましい事故が発生しました。この事故により乗員49名中44名が犠牲となり、当時の大型飛行船技術が抱える脆弱性を示す結果となりました。一方で、技術の進歩を示す成果もありました。オーストラリアのパイロット、バート・ヒンクラーは、アブロ ベービーという小型機を使用し、シドニーからクィーンランドまで約1370kmの無着陸飛行に成功し、長距離飛行技術の可能性を示しました。

個人の活躍もこの年の航空界を彩りました。女性パイロットたちの挑戦は特に注目すべきでした。ベシー・コールマンはフランスで操縦訓練を修了し、アフリカ系アメリカ人女性として初めてパイロットの資格を取得し、その後のキャリアで多くの人々を勇気づけました。アメリカでは、早くから女性パイロットとして活動していたネタ・スヌークが、ロサンゼルスで行われた航空レースに出場し、女性も男性と同等に競技に参加できることを示しました。また、フランスのアドリエーヌ・ボーランは、コードロンG3でアルゼンチンのメンドーサからチリのサンティアゴまで、難易度の高いアンデス山脈越え飛行を成功させ、女性パイロットの技術と勇気を示しました。産業の面では、後に世界有数の航空機メーカーとなるアメリカのダグラス・エアクラフト社が設立され、航空産業の未来を担う重要な一歩が踏み出されました。

1921年は、このように軍事、民間、技術、そして人々の情熱が交錯し、航空が社会におけるその存在感を高めていった一年と言えるでしょう。成功と失敗、制度の確立と新たな挑戦が織りなすこの年は、その後の航空史の発展に大きな影響を与えました。

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