1931年の航空

1931年は、航空技術の発展と限界への挑戦が目覚ましい一年でした。世界各地で記録破りの飛行が試みられ、新たな技術やインフラが導入され、航空が社会に与える影響が拡大しました。

年が明けて間もない1月、イタリアの空軍大臣であったイタロ・バルボは、12機のサボイア・マルケッティ飛行艇を率いて、イタリアからブラジルのリオデジャネイロまで、大西洋を横断する大規模な編隊飛行を成功させ、そのリーダーシップと飛行技術の高さを示しました。

日本では、航空の黎明期における重要な出来事が多数発生しました。3月には、日本海軍の半硬式飛行船である第八飛行船が、当時の半硬式飛行船としては世界最長となる60時間1分という長時間滞空記録を樹立し、飛行船技術の一つの頂点を示しました。また、民間航空においては、東京航空輸送社が定期水上旅客機に女性客室乗務員、いわゆる「エア・ガール」を初めて搭乗させ、旅客サービスの新時代を切り開きました。さらに、航空研究の拠点として東京帝国大学航空研究所が開所され、技術開発の基礎が築かれました。そして8月25日には、後の東京国際空港となる羽田飛行場が正式に開港し、日本の空の玄関口としての第一歩を踏み出しました。しかし、この年には日本の航空史上初めての旅客機墜落事故が福岡県で発生し、犠牲者が出たことも記録されています。

長距離飛行における挑戦は世界中で繰り広げられました。オーストラリア出身のパイロット、バート・ヒンクラーは、カナダを出発後、南米を経由して南大西洋を単独無着陸で横断、その後アフリカを経てロンドンへと戻るという壮大な飛行を成功させました。また、アメリカのウィリー・ポストとハロルド・ガティーは、ロッキード社の「ウィニー・モー号」を用い、わずか8日と15時間余りで世界一周速度記録を樹立し、航空機の高速化の可能性を実証しました。太平洋横断飛行にも成功例が生まれ、ヒュー・ハーンドンとクライド・パングボーンは「ミス・ビードル号」で青森県の淋代海岸からアメリカ合衆国ワシントン州ウェナッチへの無着陸飛行を成し遂げ、太平洋を越える航空路開拓に貢献しました。

個人の冒険飛行も注目を集めました。ドイツの女性パイロット、マルガ・フォン・エッツドルフは、ベルリンから遥か東の東京までの単独飛行を成功させ、女性パイロットの活躍を際立たせました。アメリカの著名な飛行家チャールズ・リンドバーグも、妻アン・モローと共にロッキード・シリウス水上機で太平洋北回りルートの調査飛行を行い、日本の釧路や霞ヶ浦にも飛来しました。一方で、パリから東京への飛行に挑んだフランスのドボワチーヌ D.33はウラル山中で墜落し、パイロットのジョセフ・ルブリが命を落とす悲劇も発生しました。

技術開発の面では、スイスのオーギュスト・ピカール教授らが成層圏用気球で高度15,781mという当時の高高度記録を達成し、高層大気の研究を推進しました。高高度飛行の実験のために与圧室を備えたユンカース Ju 49実験機が初飛行するなど、未来の航空技術に向けた研究も進められました。また、巨大なアメリカ海軍の飛行船「アクロン」の運用が開始され、大型飛行船の可能性が追求されました。

航空競技も盛り上がりを見せ、シュナイダー・トロフィー・レースでは英国が完勝を飾り、ジョン・ボースマンがスーパーマリン S6Bで547km/hを超える速度記録を樹立し、水上機による高速化競争の頂点を極めました。しかし、地上機の速度記録に挑んだジービー モデルZは墜落し、操縦していたローウェル・ベイルスが死亡するなど、技術開発に伴う危険性も浮き彫りになりました。

こうした功績に対し、バート・ヒンクラーがシーグレーブ・トロフィーやイギリス飛行クラブ金賞を、イタロ・バルボ、オーギュスト・ピカール、マリーズ・バスティエ、フーゴー・エッケナーらがハーモン・トロフィーを受賞するなど、多くの航空関係者がその功績を称えられました。

1931年は、人類が空への夢を追い続け、技術の粋を集めて挑戦を重ねた激動の年であり、その後の航空史における重要な一歩が数多く刻まれた一年と言えるでしょう。

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