1936年の日本公開映画

1936年（昭和11年） 日本公開映画概観

1936年は、昭和11年にあたり、日本国内において多数の映画作品が商業公開された年でした。この年に封切られた映画の記録は、当時の日本の社会情勢や文化的な嗜好を映し出す貴重な資料となっています。

年間を通じて、様々な国で製作された作品が日本の劇場に届けられました。特にアメリカ映画は圧倒的な数を誇り、当時の日本映画界に大きな影響を与えていたことがうかがえます。それに加えて、ドイツ、フランス、イギリスといったヨーロッパ各国の映画も少なからず公開され、多様な視点や表現を持つ作品群が日本の観客に提供されました。また、自国である日本の作品も活発に製作・公開されており、質・量ともに充実した一年であったと言えるでしょう。

キネマ旬報ベストテンに選ばれた作品

この年の映画を語る上で特筆すべきは、当時の映画批評において高く評価された作品群です。映画雑誌「キネマ旬報」が選出したベストテンは、現代に至るまで重要な指標とされています。1936年のランキングを見ると、特に注目すべき作品が明らかになります。

日本映画ベストテンでは、以下の作品がランクインしました。

1位：『祇園の姉妹』
2位：『人生劇場』
3位：『浪華悲歌』
4位：『一人息子』
5位：『赤西蠣太』
6位：『家族会議』
7位：『兄いもうと』
8位：『彦六大いに笑ふ』
9位：『情熱の詩人啄木』
10位：『秘境熱河』

これらの作品は、当時の日本映画界を代表する監督や俳優たちが手がけ、人間ドラマ、時代劇、記録映画など、様々なジャンルを含んでいます。特に溝口健二監督の『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』、小津安二郎監督の『一人息子』などは、その後の日本映画史においても重要な位置を占める作品として知られています。

外国映画ベストテンには、世界各国の質の高い作品が名を連ねました。

1位：『ミモザ館』（フランス）
2位：『幽霊西へ行く』（イギリス）
3位：『オペラハット』（アメリカ）
4位：『白き処女地』（フランス）
5位：『地の果てを行く』（フランス）
6位：『罪と罰』（フランス）
7位：『科学者の道』（アメリカ）
8位：『上から下まで』（フランス）
9位：『人生は四十二から』（アメリカ）
10位：『ドン・ファン』（イギリス）

外国映画のリストを見ると、アメリカ映画が3作品、フランス映画が4作品、イギリス映画が2作品、そしてドイツ映画が1作品ランクインしており、特にフランス映画の評価が高かったことが分かります。ミュージカル、ファンタジー、ドラマ、ドキュメンタリーなど、多様なジャンルの作品が日本の観客に受け入れられていたことがうかがえます。

多様な作品ラインナップ

ベストテン作品以外にも、1936年には数多くの映画が公開されました。例えば、1月に公開されたアメリカ映画『トップ・ハット』や、5月に公開されたイギリス映画『紅はこべ』、9月のイギリス映画『来るべき世界』などは、それぞれの国や時代の特色を持つ作品として注目されました。

公開月別に見ると、年間を通じて様々な作品がコンスタントに供給されていたことが分かります。アメリカ映画からは『頑張れキャグニー』、『支那海』、『真夏の夜の夢』、『オペラは踊る』、『海賊ブラッド』、『巨星ジーグフェルド』など、今日でも名を知られる作品が多く含まれています。また、ドイツ映画の『桃源境（テュランドット）』、『唄へ今宵を』、フランス映画の『黒い瞳』、『第二情報部』、イギリス映画の『三十九夜』、『奇蹟人間』なども公開され、国際的な映画の動向が日本にもたらされていました。

1936年の日本公開映画の記録は、単なる作品リストに留まらず、当時の日本の映画産業の活況、観客の多様なニーズ、そして世界各国の映画文化がどのように日本に流入し、受容されていたかを示す貴重な証言と言えるでしょう。これらの作品は、昭和初期の日本における文化的な風景の一部を形成していたのです。

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