1952年の航空

1952年：ジェット時代の幕開けと航空技術の躍進

1952年は、世界の航空史において重要な転換点となった年です。特に、商用ジェット旅客機が初めて空を舞い、長距離飛行技術が進化を遂げるなど、航空技術の目覚ましい進歩が見られました。また、朝鮮戦争のような現実の紛争が、新たな航空技術の実戦的な試験場となる側面もありました。

年明け早々、航空業界に大きなニュースが飛び込みます。1月5日にはパンアメリカン航空が大西洋横断路線の運航を開始し、国際航空ネットワークの拡大を象徴しました。そして1月22日、世界初の本格的なジェット旅客機であるデ・ハビランドコメットが耐空証明を取得。これは、将来の航空旅行の姿を大きく変える画期的な出来事でした。コメットは同年5月2日には、イギリス海外航空（BOAC）によってロンドンとヨハネスブルグを結ぶ長距離路線に就航し、ジェット旅客機時代の幕開けを告げました。

この年は、長距離飛行における技術的な挑戦も多く見られました。5月12日には、ジェット爆撃機イングリッシュ・エレクトリックキャンベラが、イギリスからオーストラリアまでを無着陸無給油で飛びきり、わずか23時間5分という驚異的な記録を樹立しました。さらに、7月29日にはアメリカ空軍の偵察機RB-45が、無着陸での太平洋横断飛行を成功させています。回転翼機においても、7月15日から31日にかけて、アメリカ空軍のシコルスキー H-19ヘリコプター2機が大西洋横断飛行を達成しました。これはヘリコプターの航続距離と信頼性の向上を示す出来事であり、同年7月8日にニューヨーク・エアウェイズがヘリコプターによる空港間輸送を開始するなど、民間におけるヘリコプター活用の可能性も広がりました。

軍事航空の分野では、新技術の実戦投入が進みました。5月29日、朝鮮戦争において、アメリカ空軍はF-84戦闘爆撃機12機に対する空中給油をKB-29給油機から実施。これは実戦作戦で空中給油が行われた最初の事例とされています。また、8月28日には、無人標的機に改造されたF6F ヘルキャットに爆弾を搭載し、遠隔操作で鉄橋攻撃に使用するという、後の無人攻撃機の萌芽ともいえる試みが行われました。朝鮮戦争では激しい航空戦が展開され、6月23日から24日には、アメリカ海軍と海兵隊が北朝鮮の発電施設に対し1,200回にも及ぶ大規模な攻撃を行いました。さらに、レシプロ機がジェット機を撃墜するという珍しい戦果も報じられ、8月9日にはイギリス海軍の航空母艦HMS オーシャンから発艦したホーカーシーフューリーが、MiG-15を撃墜したと発表されました。

冷戦下の緊張関係も航空分野に影響を与えました。6月13日から16日にかけて、バルト海で情報収集を行っていたスウェーデン空軍のC-47がソビエト空軍のMiG-15に撃墜され、続く生存者捜索に向かったPBY カタリナも撃墜されるという事件が発生しました。10月7日には、歯舞諸島付近でアメリカ空軍のRB-29が撃墜される事件も発生しています。このような情勢の中、各国の航空戦力は強化され、7月1日にはポルトガルで陸軍航空隊と海軍航空隊が統合されてポルトガル空軍が発足しました。

新型機の開発も活発に行われました。スイス初のジェット戦闘機であるEFW N-20が4月8日に初飛行しましたが、開発はすぐに中止されました。一方、ユーゴスラビア初の国産ジェット機イカルス 451M（10月25日）、スウェーデンのサーブ 32 ランセン（11月3日）などが初飛行を遂げました。カナダでは、12月18日に全天候ジェット戦闘機CF-100 カナックがダイブ飛行で音速突破に成功し、その高性能を示しました。また、イギリスでは大型長距離飛行艇サンダース・ロープリンセスが8月22日に初飛行しました。

戦後の日本の航空界も、この年に大きな動きを見せました。GHQによる航空活動禁止令が解除され、民間航空会社が次々と設立されました。7月4日には日東航空、9月13日には富士航空、そして12月27日には後の全日本空輸となる日本ヘリコプター輸送が誕生しました。さらに、国産機の開発も始まり、9月17日には新立川飛行機が製作した戦後初の国産練習機R-52が、12月30日には川西航空機出身者が中心となって設立された東洋航空工業によるTT-10がそれぞれ初飛行を果たし、日本の空が再び動き出したことを象徴しました。また、同年11月には日本の月刊航空雑誌「航空ファン」が創刊され、航空への関心が高まっている様子がうかがえます。

技術の進歩は悲劇ももたらしました。9月6日、イギリスのファーンボロー国際航空ショーにおいて、デ・ハビランドシービクセンの原型機が飛行中に空中分解し、観客席に部品が飛び込む大事故が発生。テストパイロットらを含む26名が死亡、65名が負傷するという痛ましい出来事となりました。また、12月20日にはアメリカ空軍の大型輸送機C-124 グローブマスターが離陸時に墜落し、87名が犠牲となり、当時の航空事故としては最大の犠牲者数となりました。

企業動向としては、エレクトリックボート社がジェネラル・ダイナミクスへと社名を変更したことが挙げられます。

この年、航空分野で顕著な功績を残した個人には、ハーモン・トロフィーがバーント・バルチェン、ジャクリーヌ・オリオール、ウォルター・マシックに、イギリス飛行クラブ金賞がグライダーパイロットのP.A. Willsに贈られています。

1952年は、ジェット旅客機の登場に始まり、長距離飛行、実戦での技術革新、そして日本の航空界の再建など、多岐にわたる出来事が intertwined した、未来への扉を開いた年であったと言えるでしょう。

もう一度検索