1968年の航空

1968年の航空

1968年（昭和43年）は、航空および宇宙開発の分野において、歴史的な出来事が凝縮された一年でした。技術革新が進む一方で、安全性が問われる重大な事故も発生し、未来への期待と課題が交錯する時期となりました。

この年、世界を震撼させた航空事故が複数発生しています。特に衝撃的だったのは、1月21日にグリーンランド沖で発生した、アメリカ空軍のB-52戦略爆撃機の墜落事故です。この機体は4個の核弾頭を搭載しており、墜落地点の海氷上で核弾頭が破損、大量の放射性物質が飛散し、広範な汚染を引き起こしました（チューレ空軍基地米軍機墜落事故）。核兵器を搭載した航空機の運用における危険性を改めて世界に突きつけた事故でした。

日本国内でも、6月2日未明、福岡市の板付基地で訓練中だった米軍のF-4ファントム戦闘機が操縦不能に陥り、九州大学のキャンパス内に建設中だった大型計算機センターに墜落炎上するという痛ましい事故が発生しました（九州大学電算センターファントム墜落事故）。市街地に近い基地における軍用機運用に対する不安を増大させる出来事となりました。

国際線でも悲劇は起きています。9月11日、地中海上空を飛行していたエールフランスのシュド・エスト カラベル3便が突如火災に見舞われ、墜落。乗員・乗客95名全員が犠牲となりました（エールフランス1611便火災墜落事故）。飛行中の原因不明の火災は、当時の旅客機の安全性に関する懸念材料の一つでした。

また、人類初の宇宙飛行士として知られるソ連のユーリイ・ガガーリンが、3月28日にMiG-15UTI練習機での訓練飛行中に墜落事故で命を落としたことも、世界中の人々に大きな衝撃を与えました。

技術開発の面では、未来の航空輸送を形作る重要な機体が登場しています。9月30日には、アメリカのボーイング社が開発中の大型旅客機、ボーイング747型機が初めて報道機関に公開され、いわゆる「ジャンボジェット時代」の幕開けを予感させました。一方、ソ連では西側諸国に先駆け、12月31日に超音速旅客機ツポレフTu-144型機が初飛行に成功し、超音速輸送の実用化に向けた競争が始まります。

軍用機の分野では、3月17日に可変翼攻撃機であるゼネラルダイナミクスF-111がベトナム戦争で初めて実戦投入されました。また、6月30日にはアメリカ空軍の巨大輸送機、ロッキードC-5ギャラクシーが初飛行を行い、戦略的輸送能力の新たな時代を切り開きました。その他にも、イギリスとフランスが共同開発した攻撃機SEPECATジャギュア（9月8日初飛行）や、チェコの練習機アエロL-39アルバトロス（11月4日初飛行）など、後の航空史に名を刻む機体が登場しています。

日本国内では、9月1日に西ドイツから導入された軟式飛行船「キドカラー」が初の国内飛行を成功させ、広告媒体としての飛行船の可能性を示しました。

そして、1968年は宇宙開発、特にアメリカのアポロ計画にとって極めて重要な飛躍の年となりました。10月11日から22日にかけて、アポロ計画初の有人飛行となるアポロ7号が、ウォルター・シラー、ドン・エイゼル、ウォルター・カニンガムを乗せて地球周回軌道上でのミッションを成功させ、司令船の性能を実証しました。続く12月21日から27日には、フランク・ボーマン、ジム・ラヴェル、ウィリアム・アンダースが搭乗したアポロ8号が、史上初めて有人宇宙船として月周回軌道に到達し、「地球の出」の有名な写真撮影にも成功しました。これはソ連との宇宙開発競争におけるアメリカの大きな前進であり、翌年の月面着陸への決定的な一歩となりました。ソ連もこの時期、ソユーズ計画を進めており、10月にはゲオルギ・ベレゴヴォイを乗せたソユーズ3号が宇宙飛行を行っています。

これらの功績に対し、年間で最も顕著な航空・宇宙分野の功績を称える賞が贈られました。ハーモン・トロフィーは、アポロ8号の乗組員（フランク・ボーマン、ジム・ラヴェル、ウィリアム・アンダース）が宇宙飛行部門で、ジェラルド・ジェントリーが他の部門で受賞しました。また、デラボー賞は、アポロ7号（ウォルター・カニンガム、ドン・エイゼル、ウォルター・シラー）およびアポロ8号（ジム・ラヴェル、フランク・ボーマン、ウィリアム・A・アンダース）の搭乗員たちに贈られ、彼らの宇宙飛行における貢献が高く評価されました。

1968年は、相次ぐ重大事故によって安全対策の重要性が再認識される一方で、ジャンボジェットや超音速機といった将来の航空輸送を担う新型機が姿を現し、さらに人類が月へ到達する直前の重要な有人宇宙飛行が成功するなど、航空・宇宙分野の技術と利用が急速に進展した、まさに歴史の転換点とも言える一年でした。

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