1969年の航空

1969年は、航空の世界において技術革新、組織の誕生、そして歴史的な偉業が数多く記録された、記憶すべき年となりました。

この年の航空界を語る上で欠かせないのが、旅客機の新たな時代を切り拓いた巨匠たちのデビューです。
巨大な機体で大量輸送を実現するボーイング747型機が、2月9日に記念すべき初飛行を遂げました。
音速の壁を破る超音速旅客機コンコルドも、3月2日にイギリス・ブリストルで初のテスト飛行を実施し、未来の空の旅の可能性を示しました。
チェコスロバキアのLETクノヴィツェ社が開発した双発ターボプロップ旅客機L-410も4月16日に初飛行しており、後に1,100機以上が生産されるベストセラーとなりました。

航空組織の設立も相次ぎました。
カナダ空軍の公式アクロバットチーム「スノー・バーズ」がこの年に誕生し、以来、その鮮やかな展示飛行で多くの人々を魅了しています。
3月3日には、アメリカ海軍において最高の戦闘機パイロットを育成するための専門教育機関、通称「トップガン」ことアメリカ海軍戦闘機兵器学校が設立されました。これは、その後の航空戦術に大きな影響を与えることとなります。
イタリアでは、フィアットの航空機部門などを統合した新たな航空宇宙企業、アエリタリアが11月12日に設立され、国内の航空産業再編が進みました。

技術の進歩と実用化も進みました。
イギリス空軍の第1飛行隊は7月にホーカー・シドレー ハリアーを装備し、世界で初めて垂直離着陸機（VTOL機）を運用する飛行隊となりました。これは戦術運用における画期的な出来事です。
フィンエアーは10月20日、慣性航法システムを導入した世界初の航空会社となりました。これにより、従来必要とされた航法士の搭乗が不要となり、運航の効率化に貢献しました。

一方で、航空に関連する悲劇や紛争も発生しています。
4月15日には、アメリカ海軍の早期警戒機EC-121が北朝鮮の戦闘機によって撃墜される事件が発生し、国際的な緊張が高まりました。
フィリピン航空のBAC 1-11型機が9月12日、マニラ国際空港への着陸進入中に墜落し、多数の犠牲者を出しました。
「サッカー戦争」と呼ばれるエルサルバドルとホンジュラス間の紛争では、エルサルバドル空軍機がテグシガルパ郊外の空港を爆撃するなど、航空戦力が用いられました。
ボクシングの世界チャンピオン、ロッキー・マルシアノも8月31日に航空機事故で亡くなっています。

記録への挑戦や記念のレースも行われました。
オールコックとブラウンによる無着陸大西洋横断飛行から50周年を記念した飛行レースが開催され、イギリス海軍のF-4ファントムが4時間47分の記録で優勝しました。
8月16日には、ダリル・グリーンメーヤーが改造したF8Fベアキャット「コンクェストI」で、769 km/hというレシプロ機の新たな速度記録を樹立し、実に30年ぶりに記録を更新しました。
スミス兄弟によるオーストラリア初飛行50周年を記念するEngland-Australia Commemorative Air Raceも行われ、ブリテン・ノーマン アイランダーに乗ったW. J. BrightとF. L. Buxton組が優勝しました。

そしてこの年は、航空の延長線上にある宇宙開発において、人類史に残る偉業が達成されました。
7月20日、アポロ11号が月に着陸し、ニール・アームストロング船長が人類として初めて月面に足跡を刻みました。これは航空技術の極致ともいえる成果です。
アルゼンチンも12月23日、観測ロケット「カノープス」でサルを高度60kmへ打ち上げるという宇宙関連の実験を行っています。

これらの功績に対し、様々な航空関連の賞が贈られました。
フランス飛行クラブ大賞は、アポロ11号のニール・アームストロング、バズ・オルドリン、マイケル・コリンズの3名が受賞しました。
ハーモン・トロフィーも、トマス・レッキー＝トンプスン氏らに加え、宇宙飛行部門でアポロ11号のクルーが受賞しています。
デラボー賞も同様に、ピート・コンラッド氏やニール・アームストロング氏ら、宇宙飛行に貢献した人々が名を連ねました。

1969年は、大型旅客機や超音速機の登場に始まり、組織の設立、革新技術の導入、そして人類の月面到達という壮大な出来事まで、航空が社会、技術、そして夢と深く結びついていることを改めて示した一年でした。

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