1972年のテレビ (日本)

1972年（昭和47年）のテレビジョン放送

1972年は、日本のテレビジョン放送にとって、カラー化の加速とネットワークの拡充が顕著に進んだ一年でした。時代の大きな出来事をテレビが伝え、多様な新番組が生まれ、視聴者の関心を集めました。

カラー化の波、全国へ

前年までに多くの番組がカラー放送となっていた状況を受け、この年に入ると、新聞のテレビ欄からカラーを示す表記が姿を消し始めます。読売新聞に続き、元旦には朝日新聞が、4月1日からは毎日新聞もカラー表示をなくしました。また、7月1日には映像・音声周波数の単位がメガサイクル（Mc）からメガヘルツ（MHz）に変更され、これを機に在京キー局を含む多くの民放が、番組開始・終了時に流すカラー映像を制作・変更しました。日本テレビでは長年親しまれた「鳩の休日」のカラー版が登場し、TBSは「ガラス棒」のカラー映像に刷新、フジテレビやNET（現・テレビ朝日）も新たなカラーフィルムを導入しました。そして年末には、NHKの地方局におけるカラー化整備が完了し、ローカル番組を含むNHK総合テレビの放送が全面的にカラー化されました。1月時点で在京民放キー局のカラー放送時間も、日本テレビが95%に達するなど、全体的に高い比率となっていました。

エリア拡大とネットワーク形成

この年は、新しい放送局が開局し、既存局の放送エリアが拡大するなど、日本のテレビ地図に変化が見られました。4月1日には、北海道地区で4系列4民放のフルネット化を完成させる北海道文化放送（UHB、フジテレビ系列）が開局したほか、テレビ神奈川（TVK）とびわ湖放送（BBC）といった独立UHF局も放送を開始しました。また、長年の課題であった山陰地方の放送エリア問題に解決の兆しが見え始めます。9月22日、鳥取県が放送対象地域だった日本海テレビ（NKT）と、島根県が対象だった山陰放送（BSS）、山陰中央テレビ（TSKから同日社名変更）が互いの県での放送を開始し、両県を一体とした準広域圏が形成され、民放3局体制となりました。ネットワーク面では、6月14日に日本テレビ系列のネットワーク協議会（NNS）が発足。日本テレビを含む19局が参加しました。

沖縄返還とテレビ

5月15日の沖縄の本土復帰は、テレビ放送にも大きな影響を与えました。沖縄県の誕生に伴い、それまで沖縄放送協会として放送を行っていた組織がNHK沖縄放送局として開局しました。また、民放の沖縄テレビ（OTV）と琉球放送（RBC）はコールサインとチャンネル番号を変更し、FNN/FNS（OTV）、JNN（RBC）にそれぞれ正式に加盟しました。電電公社による鹿児島から名瀬、沖縄本島を結ぶカラー同時ネット対応の高規格回線が新たに開設されたことで、本土からのカラー同時ネット放送がようやく可能になりました。当初は1回線のみをNHK総合、RBC、OTVが時間帯を分けて使用していましたが、12月10日には回線が増強され、NHK総合・教育、RBC、OTVに専用回線が開通。これにより、沖縄本島と奄美群島でのNHK総合テレビの全面カラー化、NHK教育テレビのカラー放送開始、RBCとOTVの同時ネット受けカラー化が実現しました。

時代の出来事を伝えるテレビ

1972年は、歴史的な出来事がテレビで大きく報じられた年でもありました。2月には札幌冬季オリンピック、夏にはミュンヘンオリンピックが開催され、両大会ともNHKや民放各局によって全面カラーで中継されました。特にミュンヘンオリンピックは衛星中継され、視聴率も高値を記録しました。2月28日に発生した連合赤軍によるあさま山荘事件では、人質救出作戦から犯人逮捕・連行まで、NHKを含む各局が長時間にわたり連続生中継を行いました。民放の中にはCMを一切流さず放送を続けた局もあり、FNN取材団が犯人逮捕の瞬間をスクープするなど、日本のテレビ報道史において特筆すべき出来事となりました。また、6月17日には佐藤栄作首相（当時）の退陣表明会見が生中継され、異例のテレビ主導形式が話題となりました。9月末には、田中角栄首相（当時）の中国訪問と日中国交正常化に関する共同声明発表のため、各局が特別報道番組を編成しました。

人気番組の誕生と変遷

バラエティ豊かな新番組が多数登場しました。ドラマでは、日本テレビの長期人気シリーズとなる『太陽にほえろ!』が7月21日にスタート。フジテレビの『木枯し紋次郎』（1月1日）、朝日放送制作の「必殺シリーズ」第1作となる『必殺仕掛人』（9月2日）など、後のシリーズ化に繋がる作品も生まれました。NHKでは、若者向けドラマシリーズ「少年ドラマシリーズ」が始まり、第1作として筒井康隆原作の『タイム・トラベラー』を放送しました。音楽番組では、山本直純が企画・司会を務める『オーケストラがやって来た』（TBS、10月1日）、芸能人家族が歌声を披露する『オールスター家族対抗歌合戦』（フジテレビ、10月1日）、フォーリーブス司会のアイドル歌謡番組『歌え!ヤンヤン!』（東京12チャンネル、4月6日）などが開始されました。映画番組としては、水野晴郎の解説で知られる『水曜ロードショー』（日本テレビ、4月5日）が始まりました。特撮・アニメでは、円谷プロの「ウルトラシリーズ」第5弾『ウルトラマンA』（TBS、4月7日）、タツノコプロ制作の『科学忍者隊ガッチャマン』（フジテレビ、10月1日）、永井豪原作のロボットアニメ『マジンガーZ』（フジテレビ、12月3日）といった、今日まで語り継がれる作品が放送開始されました。一方、日本テレビの長寿バラエティ『シャボン玉ホリデー』が10月1日に11年以上の歴史に幕を閉じました。

プロレス中継を巡る動き

この年は、プロレス中継の世界にも大きな変化がありました。NET（現・テレビ朝日）の『ワールドプロレスリング』にジャイアント馬場が出場したことが、日本テレビで『日本プロレス中継』を放送していた側からの強い反発を招き、日本テレビは18年間続いた同番組の打ち切りを発表しました。これに対し、馬場は日本テレビと協力して全日本プロレスを設立。10月7日には日本テレビで新たなプロレス番組『全日本プロレス中継』がスタートしました。NETも金曜夜に新たな日本プロレス中継を開始するなど、両局でプロレス放送を巡る競争が見られました。

高い視聴率を記録した番組

年末恒例の『NHK紅白歌合戦』は80.6%という驚異的な視聴率を記録しました。ドラマでは、水前寺清子主演の『ありがとう』が56.3%、NHKの連続テレビ小説『繭子ひとり』が55.2%、『藍より青く』が53.3%と高い関心を集めました。スポーツ中継ではミュンヘンオリンピックが58.7%など50%超えを連発し、あさま山荘事件関連のニュースも50%を超えるなど、社会的な関心事を伝える報道番組も多くの視聴者が見ました。

1972年は、カラー化が全国に行き渡り、放送エリアが拡大し、ネットワーク化も進む中で、ニュース、スポーツ、ドラマ、バラエティ、アニメ・特撮など、多様なジャンルの番組が視聴者を惹きつけ、テレビが社会の中心的なメディアとしての地位を確固たるものにした一年と言えるでしょう。

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