1972年のル・マン24時間レース
1972年のル・マン24時間レースは、サルト・サーキットにおいて開催された、40回目の大会であり、世界メーカー選手権の第9戦でもありました。このレースは、1972年のモータースポーツ界において大きな転換点を迎えた象徴的な出来事となりました。
それまでのル・マン24時間レースを席巻してきた5リットル・スポーツカー、ポルシェ917やフェラーリ512Sなどは、この年から導入された新しいレギュレーションにより、3リットル・スポーツプロトタイプにその座を譲ることになったのです。このレギュレーション変更は、レースの様相を大きく変えることになります。
特に注目を集めていたのは、世界メーカー選手権で開幕から8連勝を飾っていたフェラーリでした。ニュルブルクリンク1000kmでも勝利し、チャンピオン獲得も間近に迫っていた彼らにとって、ル・マン24時間レースへの出場はほぼ確実視されていました。3月のルマン・テストデイにも参加し、新型マシン312PBのテストを重ねていたフェラーリでしたが、レース開始わずか1週間前の6月1日、突如として不参加を表明したのです。その理由は「312PBは1000kmレースでの使用を前提に開発されており、24時間レースには耐えられない」というものでした。実際、テスト中に312PBに深刻なトラブルが発生していたという情報も残っています。この決定は、チーム監督のピーター・シェッティでさえ、直前まで知らされていなかったと伝えられています。
フェラーリの不参加により、優勝候補の本命として躍り出たのがマトラでした。彼らはル・マン24時間レース制覇という目標を掲げ、ニューマシンMS670を3台も投入する力の入れようでした。さらに、予備としてMS660Cも持ち込み、万全の体制でレースに臨みました。マトラの挑戦を阻む存在として期待されていたのが、1970年以来のル・マン復帰を果たしたアルファロメオでした。彼らは33TT3を投入し、マトラと優勝を争う構図となりました。
前年、優勝を収めていたポルシェは、レギュレーション変更の影響を受け、ワークスチームは撤退。しかし、908や910といったマシンは、複数のプライベーターチームによってエントリーされました。さらに、この年から新設されたツーリングカー・クラスからは、フォード・カプリRSやBMW 2800CSといったマシンも参戦し、レースの多様性を高めました。
予選では、マトラが圧倒的な強さを見せつけました。ポールポジションにはフランソワ・セベール/ハウデン・ガンレイ組が座り、予選上位3位までをマトラ勢が独占する結果となりました。
レースは、フランス大統領ジョルジュ・ポンピドゥーによる名誉スタートで幕を開けました。マトラの3台はスタート直後からトップ争いを展開しましたが、2周目にはジャン＝ピエール・ベルトワーズのマシンがコネクティングロッドの破損により出火、アルナージュ付近でリタイアを余儀なくされました。1時間経過時点では、ローラT280がトップに立ち、それを3台のマトラが追いかける展開となりました。しかし、その後ローラが後退し、マトラ勢によるトップ争いが繰り広げられることになります。
レースは順調に進みそうでしたが、11日の午前6時半過ぎ、ジィズ・ヴァン・レネップがドライブするローラがファステストラップを記録しました。しかし、その後ヴァン・レネップから交代したヨアキム・ボニエが、フェラーリ365GTB/4と接触。ガードレールを飛び越えるという大事故が発生し、ボニエは命を落としてしまいました。
この事故後もレースは続けられましたが、10時過ぎから降り始めた雨の影響を受け、電気系統のトラブルに見舞われたセベール組のマトラはピットインを余儀なくされました。その間に、アンリ・ペスカロロ組がトップに浮上します。その後、セベールから交代したガンレイはスピンを喫し、再びピットイン。ペスカロロ組はそのまま首位を守り切り、セベール組に10周差をつけて見事優勝を飾りました。3位を走行していたMS660Cがリタイアしたため、マトラは1-2フィニッシュを達成、ル・マン初優勝という快挙を成し遂げました。フランス車がル・マン24時間レースで優勝したのは、1950年のタルボ・ラーゴ以来のことでした。優勝したグラハム・ヒルは、モナコグランプリとインディ500も制覇しており、2018年現在も世界三大レースを制覇した唯一のドライバーとして知られています。マトラのライバルと目されていたアルファロメオは、ヴァッカレラ/デ・アダミッチ組が4位に入ったものの、他の2台はリタイアという結果に終わりました。
この1972年のル・マン24時間レースは、レギュレーション変更による激変、そして悲劇的な事故、そしてマトラによる歴史的勝利と、多くのドラマが凝縮された忘れられない一戦となりました。
それまでのル・マン24時間レースを席巻してきた5リットル・スポーツカー、ポルシェ917やフェラーリ512Sなどは、この年から導入された新しいレギュレーションにより、3リットル・スポーツプロトタイプにその座を譲ることになったのです。このレギュレーション変更は、レースの様相を大きく変えることになります。
特に注目を集めていたのは、世界メーカー選手権で開幕から8連勝を飾っていたフェラーリでした。ニュルブルクリンク1000kmでも勝利し、チャンピオン獲得も間近に迫っていた彼らにとって、ル・マン24時間レースへの出場はほぼ確実視されていました。3月のルマン・テストデイにも参加し、新型マシン312PBのテストを重ねていたフェラーリでしたが、レース開始わずか1週間前の6月1日、突如として不参加を表明したのです。その理由は「312PBは1000kmレースでの使用を前提に開発されており、24時間レースには耐えられない」というものでした。実際、テスト中に312PBに深刻なトラブルが発生していたという情報も残っています。この決定は、チーム監督のピーター・シェッティでさえ、直前まで知らされていなかったと伝えられています。
フェラーリの不参加により、優勝候補の本命として躍り出たのがマトラでした。彼らはル・マン24時間レース制覇という目標を掲げ、ニューマシンMS670を3台も投入する力の入れようでした。さらに、予備としてMS660Cも持ち込み、万全の体制でレースに臨みました。マトラの挑戦を阻む存在として期待されていたのが、1970年以来のル・マン復帰を果たしたアルファロメオでした。彼らは33TT3を投入し、マトラと優勝を争う構図となりました。
前年、優勝を収めていたポルシェは、レギュレーション変更の影響を受け、ワークスチームは撤退。しかし、908や910といったマシンは、複数のプライベーターチームによってエントリーされました。さらに、この年から新設されたツーリングカー・クラスからは、フォード・カプリRSやBMW 2800CSといったマシンも参戦し、レースの多様性を高めました。
予選では、マトラが圧倒的な強さを見せつけました。ポールポジションにはフランソワ・セベール/ハウデン・ガンレイ組が座り、予選上位3位までをマトラ勢が独占する結果となりました。
レースは、フランス大統領ジョルジュ・ポンピドゥーによる名誉スタートで幕を開けました。マトラの3台はスタート直後からトップ争いを展開しましたが、2周目にはジャン＝ピエール・ベルトワーズのマシンがコネクティングロッドの破損により出火、アルナージュ付近でリタイアを余儀なくされました。1時間経過時点では、ローラT280がトップに立ち、それを3台のマトラが追いかける展開となりました。しかし、その後ローラが後退し、マトラ勢によるトップ争いが繰り広げられることになります。
レースは順調に進みそうでしたが、11日の午前6時半過ぎ、ジィズ・ヴァン・レネップがドライブするローラがファステストラップを記録しました。しかし、その後ヴァン・レネップから交代したヨアキム・ボニエが、フェラーリ365GTB/4と接触。ガードレールを飛び越えるという大事故が発生し、ボニエは命を落としてしまいました。
この事故後もレースは続けられましたが、10時過ぎから降り始めた雨の影響を受け、電気系統のトラブルに見舞われたセベール組のマトラはピットインを余儀なくされました。その間に、アンリ・ペスカロロ組がトップに浮上します。その後、セベールから交代したガンレイはスピンを喫し、再びピットイン。ペスカロロ組はそのまま首位を守り切り、セベール組に10周差をつけて見事優勝を飾りました。3位を走行していたMS660Cがリタイアしたため、マトラは1-2フィニッシュを達成、ル・マン初優勝という快挙を成し遂げました。フランス車がル・マン24時間レースで優勝したのは、1950年のタルボ・ラーゴ以来のことでした。優勝したグラハム・ヒルは、モナコグランプリとインディ500も制覇しており、2018年現在も世界三大レースを制覇した唯一のドライバーとして知られています。マトラのライバルと目されていたアルファロメオは、ヴァッカレラ/デ・アダミッチ組が4位に入ったものの、他の2台はリタイアという結果に終わりました。
この1972年のル・マン24時間レースは、レギュレーション変更による激変、そして悲劇的な事故、そしてマトラによる歴史的勝利と、多くのドラマが凝縮された忘れられない一戦となりました。
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