1980年のテレビ (日本)

1980年のテレビジョン放送：音声多重化と文化の転換点

1980年（昭和55年）の日本のテレビ界は、技術革新と番組の変化が鮮やかに交錯した年として記憶されています。特に、音声多重放送の普及が大きな節目となり、視聴体験に多様性をもたらしました。また、新たな放送局の開局や、社会現象となるほどの人気番組・CMが登場し、テレビが文化の中心としての存在感を一層強めた時代でした。

この年、長野県に3番目の民放テレビ局であるテレビ信州が開局しました。これは、地方における情報伝達の多様化を象徴する出来事の一つです。また、既存局でも系列局の変更が見られるなど、放送ネットワークの再編の動きも静かに進んでいました。

技術面では、音声多重放送が徐々に実用化の段階に入りました。特例として、6月に行われた衆参同時選挙の開票特別番組で初めて2音声多重放送（解説放送）が実施され、視聴者は主音声に加え、より詳しい解説を聞くことができるようになりました。これを機に、音声多重放送は正式に認められ、翌年1月には施行されます。番組制作においても、ドラマや音楽番組でのステレオ放送が始まりました。日本テレビの長時間ドラマ『太陽は沈まず』や、TBSの時代劇『江戸を斬るV』の一部の回、そして連続ドラマとしては初のステレオ放送となった『天皇の料理番』などが、その先駆けとなりました。また、年末の『日本レコード大賞』や『NHK紅白歌合戦』もステレオで放送され、音楽番組の新たな楽しみ方が提示されました。

番組編成では、多くの看板番組が誕生あるいは終了しました。NHKでは報道番組『NHKニュースワイド』や、日中共同制作の大型ドキュメンタリー『NHK特集 シルクロード』が始まり、『スタジオ102』が終了しました。日本テレビでは、後に多くの人気タレントを輩出するオーディション番組『お笑いスター誕生!!』がスタート。『おはよう!こどもショー』が15年弱の歴史に幕を下ろしました。TBSでは硬派な報道番組『報道特集』が始まり、長寿クイズ番組『ベルトクイズQ&Q』や歌謡番組『家族そろって歌合戦』が終了しました。フジテレビでは、『クイズグランプリ』が10年の歴史を終えました。また、東京・新宿にオープンした多目的スタジオ「スタジオアルタ」からの公開生放送番組『日本全国ひる休み』が始まり、後の『笑っていいとも！』へと繋がる礎を築きました。

この年は漫才ブームが幕を開けた年でもあります。フジテレビ系の『激突!漫才新幹線』や『THE MANZAI』といった番組が、新たなスタイルの漫才を世に紹介し、後の隆盛のきっかけとなりました。また、アイドル歌手の山口百恵が芸能界からの引退を表明。彼女のラストステージとなった武道館コンサートや、最後のテレビ出演となった特別番組は、いずれもステレオ生中継され、多くの視聴者の感動を呼びました。

スポーツイベントでは、レークプラシッド冬季オリンピック（NHK放送）とモスクワオリンピック（テレビ朝日系独占放送）が開催され、テレビを通じて熱戦が届けられました。しかし、モスクワオリンピックは日本が不参加となったため、その放送は限定的なものとなりました。

CM界も大きな話題を提供しました。パイオニアのラジカセCMソングとして生まれたシャネルズの「ランナウェイ」や、ミノルタのカメラCMに出演した宮崎美子が社会現象となる大反響を呼びました。特に宮崎美子のCMは、使用された楽曲のヒットや、お笑い番組でのパロディなど、様々なメディアに影響を与え、彼女自身の女優デビューのきっかけともなりました。

視聴率では、TBSが在京民放局の中で年間視聴率3冠を獲得し、強さを見せつけました。また、年末の『NHK紅白歌合戦』が71.1%という驚異的な視聴率を記録するなど、テレビの影響力の大きさが改めて示されました。ドラマ『3年B組金八先生』第1シリーズの最終回や、『水戸黄門』、『熱中時代』といった人気シリーズが高視聴率を獲得しました。

技術の面では、TBSがマラソン中継で光ケーブルを初めて使用したり、NHK放送技術研究所がハイビジョンカラーカメラを試作するなど、未来に向けた実験的な取り組みも見られました。一方で、静岡放送で発生した放送事故は、ヒューマンエラーによる問題として注目されました。

1980年は、テレビ放送が音声多重化によって表現の幅を広げ、多様なジャンルの番組が花開き、CMが社会現象を巻き起こすなど、テレビが単なる情報伝達ツールを超え、国民文化に深く根ざしたメディアへと進化していく過程が明確に見られた一年と言えるでしょう。

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