1985年のラジオ (日本)

1985年の日本のラジオ界概観

1985年は、日本のラジオメディアにとって変革と発展の一年でした。全国各地で新たなFMラジオ局が相次いで開局し、ラジオ放送のサービスエリアが拡大しました。これにより、地域に根ざした情報発信や文化的な交流の機会が増加。同時に、番組内容も多様化が進み、リスナーの嗜好に応じた様々なジャンルの番組が登場しました。既存の放送局も、新しい企画や出演者を積極的に採用し、リスナー獲得競争が活発化。音楽、エンターテイメント、情報など、幅広い分野で新たな試みが展開されたのです。

新たなFM局の開局ラッシュ

この年のラジオ界の最大のトピックの一つは、新しいFM放送局が多数開局したことです。4月1日にはエフエム秋田と富山エフエム放送（エフエムとやま）が開局し、北東北と北陸にFMの電波が届き始めました。続いて6月1日には三重エフエム放送（エフエム三重）が東海地方に誕生。秋には、10月1日にエフエム岩手とエフエム群馬が開局し、東北地方と関東地方の一部でFMネットワークが強化されました。11月1日にはエフエム中九州（現：エフエム熊本）が九州のリスナーに向けて放送を開始。そして、年の瀬には12月1日にエフエム山口、12月20日には首都圏の新たなFM局として横浜エフエム放送（エフエム横浜）が産声を上げました。これらの新しいFM局の登場は、全国各地で高品質な音楽放送や地域情報の提供を可能にし、ラジオの存在感を高める要因となりました。

番組の動き

1985年には、既存局、新設局問わず、数多くの新しい番組が誕生しました。

NHKの挑戦

公共放送であるNHKも、この年、新しい試みを導入しました。特筆すべきは、NHK教育テレビで放送されていたクラシック番組『N響アワー』が、4月7日からテレビの再放送時間帯に限り、NHK-FMでステレオ同時放送を開始したことです。これは、テレビとラジオという異なるメディアの連携による新しい聴取スタイルを提案するものでした。他にも、NHKラジオ第1では『新・ラジオ歌謡』や『はつらつスタジオ505』、NHKラジオ第2では語学番組『外国語への招待 - ことばと文化』、NHK-FMでは『ミュージックダイアリー』、『クラシックギャラリー』、『アドベンチャーロード』など、クラシック、邦楽、ワールドミュージック、演劇、語学、情報といった多様なジャンルの新番組がスタートしました。

民放ラジオの活況

民放各局も、リスナーのニーズに応えるべく、様々な新番組を投入しました。特に目立ったのは、若者層を意識した番組です。ニッポン放送では、アイドルやお笑い芸人、ミュージシャンがパーソナリティを務める深夜放送『オールナイトニッポン』に、小峯隆生、中村あゆみ、サンプラザ中野、そして秋にはとんねるずといった人気パーソナリティが新たに加わりました。また、昼間の時間帯でも高嶋ひでたけによる情報番組『お早よう!中年探偵団』が開始するなど、多角的な編成が行われました。TBSラジオでは、毒蝮三太夫による『土曜ワイド商売繁盛』のような地域に根差したバラエティ番組や、渡辺美里、松任谷由実（エフエム東京）といった人気ミュージシャンによる音楽番組が始まりました。文化放送では『電リクワイドザ・テレジオ』、東海ラジオでは『森川美穂の青春放送局』など、音楽を中心とした番組が拡充されました。新開局のFM局も積極的に地域色豊かな番組を開始しており、エフエムとやまの『ミュージック10』、エフエム山口の『FM MUSIC SALAD』などが挙げられます。このように、民放各局は、音楽、トーク、情報といった要素を組み合わせた多様な形式の番組を提供し、リスナーとのエンゲージメントを高めようと努めました。

特別企画

大規模な音楽イベントもラジオで届けられました。7月には、チャリティコンサート「THE 地球CONCERT LIVE AID」が開催され、その模様がニッポン放送で特別番組として放送されました。これは、国際的なイベントをラジオを通じてリアルタイムで日本のリスナーに伝える試みであり、大きな反響を呼びました。

世代交代と終焉

新しい番組が生まれる一方で、長年にわたりリスナーに親しまれた番組がその歴史に幕を下ろす出来事もありました。ニッポン放送の看板深夜番組の一つであった『笑福亭鶴光のオールナイトニッポン』が10月6日に最終回を迎えました。これは、一つの時代を築いた人気番組の終焉として、多くのリスナーに惜しまれました。

まとめ

1985年は、新しいFM局の開局による放送エリアの拡大と、番組内容の多様化が同時に進行した、日本のラジオ界にとって記念すべき一年でした。NHKによる新たな試みや、民放各局による個性豊かな番組編成、そして国際的なイベントの放送など、ラジオはメディアとしての活力を示しました。若者向けの番組から地域に根差した情報番組まで、幅広い層に向けたコンテンツが提供され、ラジオが人々の生活に深く根差したメディアであることを改めて証明しました。この年に築かれた基盤は、その後の日本のラジオ放送の発展に大きな影響を与えることになります。

もう一度検索